「この亀、ニホンイシガメ?クサガメ?それともミドリガメ?」
川や池で亀を見かけたとき、こんなふうに首をかしげたことはありませんか?日本の水辺で出会える淡水亀は、主にニホンイシガメ・クサガメ・アカミミガメ(ミドリガメ)の3種類。しかし、この3種は見た目が似ているようで実はまったく違う生き物です。
私なつも最初は「亀は亀でしょ?」と思っていました。ところが、実際に飼育してみると、甲羅の質感、性格、冬眠の仕方、必要な飼育環境まで驚くほど違うことがわかったんです。しかも2023年6月からは、アカミミガメが条件付特定外来生物に指定され、法律面でも知っておくべきことが大幅に増えました。
この記事では、日本で見られる淡水亀3種の外見・生態・飼育法の違いを徹底的に比較します。「どの亀を飼おうか迷っている人」「近所で見かけた亀の正体を知りたい人」「すでにアカミミガメを飼っていて法律が気になる人」――そんな方にこそ読んでほしい内容です。
約20,000字の大ボリュームですが、比較表やFAQもたっぷり用意しましたので、ぜひ最後までお付き合いください。
この記事でわかること
- 日本の淡水亀3種(ニホンイシガメ・クサガメ・アカミミガメ)の基本情報と分類
- 3種の外見・大きさ・寿命・性格を一目で比較できる早見表
- ニホンイシガメの特徴・生態・飼育方法と保全上の注意点
- クサガメの特徴・臭腺の秘密・飼育での注意点
- アカミミガメ(ミドリガメ)の条件付特定外来生物指定と法律上の義務
- 写真がなくても見分けられる!3種の外見的な識別ポイント
- 水槽サイズ・水温・フィルター・陸場など飼育環境の比較
- 冬眠の可否・方法・リスクの種ごとの違い
- ニホンイシガメ×クサガメの交雑(ウンキュウ)問題と遺伝的汚染
- 亀飼育に本当に必要なおすすめ商品の紹介
- よくある質問(FAQ)12問で疑問をすべて解決
日本の淡水亀の概要
日本で見られる主な淡水亀
日本の河川・池・湿地で見かける亀は、大きく分けて在来種と外来種に分かれます。在来種の代表がニホンイシガメ(Mauremys japonica)とクサガメ(Mauremys reevesii)、そして外来種の代表がアカミミガメ(Trachemys scripta elegans)です。
かつて日本の水辺はニホンイシガメの楽園でした。しかし1960年代から「ミドリガメ」の名前で大量に輸入されたアカミミガメが野外に放たれ、現在では全国の水辺でもっとも多く見られる亀がアカミミガメになってしまいました。環境省の調査によると、日本全国の亀の個体数の約60〜70%がアカミミガメと推定されています。
クサガメもかつては在来種と考えられていましたが、近年の遺伝学的研究により、江戸時代以降に朝鮮半島から持ち込まれた外来種である可能性が高いとされています。ただし、数百年にわたって日本の生態系に定着しているため、法的な扱いはアカミミガメとは異なります。
なぜ3種の比較が重要なのか
この3種を正しく見分け、それぞれの特性を理解することは、単なる知識の問題ではありません。法律・保全・飼育の3つの観点から、非常に重要な意味を持ちます。
まず法律面。2023年6月1日からアカミミガメは条件付特定外来生物に指定されました。飼育は届出なしで継続できますが、野外への放出・譲渡・販売・購入は原則として違法です。違反すると最大3年以下の懲役または300万円以下の罰金(法人は1億円以下の罰金)が科される可能性があります。
次に保全面。ニホンイシガメは日本固有種であり、環境省レッドリストで準絶滅危惧(NT)に指定されています。生息地の減少に加え、アカミミガメとの競合、クサガメとの交雑(後述するウンキュウ問題)によって、個体数が急速に減少しています。
そして飼育面。3種は見た目が似ているようでも、適正水温・冬眠の可否・性格・最大サイズが大きく異なります。種を間違えたまま飼育すると、亀にとって大きなストレスとなり、病気や短命の原因になります。
3種徹底比較表 ― ニホンイシガメ・クサガメ・アカミミガメ
基本スペック比較
| 比較項目 | ニホンイシガメ | クサガメ | アカミミガメ |
|---|---|---|---|
| 学名 | Mauremys japonica | Mauremys reevesii | Trachemys scripta elegans |
| 分類 | イシガメ科イシガメ属 | イシガメ科イシガメ属 | ヌマガメ科アカミミガメ属 |
| 原産地 | 日本固有種(本州・四国・九州) | 中国・朝鮮半島(国内外来種の可能性) | 北米南部〜中米 |
| 甲長(成体) | 12〜20cm | 20〜30cm | 20〜28cm(メスは最大30cm超) |
| 体重(成体) | 300〜800g | 1〜3kg | 1〜2.5kg |
| 寿命 | 20〜30年(飼育下) | 30〜50年(飼育下) | 20〜40年(飼育下) |
| 性格 | 臆病・神経質・繊細 | おっとり・温和・人馴れしやすい | 活発・気が強い・攻撃的な個体も |
| 食性 | 雑食(動物質寄り) | 雑食 | 雑食(成長につれ植物質が増加) |
| 冬眠 | 可能(自然下では必須) | 可能(丈夫で安定) | 可能だが推奨しない場合あり |
| 保全状態 | 準絶滅危惧(NT) | 外来種の可能性あり(指定なし) | 条件付特定外来生物(2023年〜) |
| 入手難易度 | 難しい(CB個体のみ推奨) | 比較的容易 | 購入は原則禁止(既存飼育は可) |
飼育環境比較
| 飼育項目 | ニホンイシガメ | クサガメ | アカミミガメ |
|---|---|---|---|
| 推奨水槽サイズ | 60〜90cm | 90〜120cm | 90〜120cm |
| 適正水温 | 22〜26℃ | 22〜28℃ | 24〜28℃ |
| 水深 | 甲羅の2〜3倍(浅め推奨) | 甲羅の3〜5倍 | 甲羅の3〜5倍 |
| 陸場 | 必須(乾燥を好む) | 必須 | 必須 |
| 紫外線ライト | 必須(UVB) | 必須(UVB) | 必須(UVB) |
| バスキングライト | 必須(30〜35℃) | 必須(30〜35℃) | 必須(32〜35℃) |
| フィルター | 上部式または外部式 | 上部式または外部式 | 上部式または外部式(強力なもの) |
| 水換え頻度 | 週2〜3回(水質に敏感) | 週1〜2回 | 週1〜2回 |
| 飼育難易度 | やや難しい | 初心者向き | 丈夫だが大きくなる |
ニホンイシガメの特徴と飼育
ニホンイシガメとは ― 日本固有の宝
ニホンイシガメ(Mauremys japonica)は、日本にしか生息しない固有種の淡水亀です。本州・四国・九州の山間部の渓流や棚田の用水路、里山のため池など、清浄な水環境に生息しています。学名の「japonica」が示す通り、文字通り「日本の亀」です。
甲羅はオレンジがかった茶褐色〜黄褐色で、後端が鋸歯(きょし)状にギザギザしているのが大きな特徴です。甲羅の中央には明瞭なキール(隆起線)が1本走っています。腹甲(おなか側の甲羅)は黒褐色で、縁に黄色い模様が入ることもあります。
体は3種の中でもっとも小さく、成体でも甲長12〜20cm程度。オスはメスよりも小さく、尾が太く長いのが特徴です。
ニホンイシガメの生態と行動
ニホンイシガメは非常に臆病で警戒心が強い亀です。人の気配を感じるとすぐに水中に潜って隠れてしまいます。野生では日光浴(バスキング)中に少しでも異変を感じると、素早く水に飛び込みます。この警戒心の強さが、アカミミガメとの競合で不利に働いている一因ともいわれています。
食性は動物質寄りの雑食で、水生昆虫・ミミズ・小型の巻貝・甲殻類・落下した果実などを食べます。流れのある清流を好む傾向があり、止水域よりも渓流的な環境を好みます。
冬は水底の落ち葉の下や岸辺の土中で冬眠します。冬眠中は代謝をほぼ停止させ、皮膚からのわずかな酸素吸収だけで数か月を過ごします。春になって水温が15℃を超えるころに活動を再開します。
ニホンイシガメの飼育ポイント
ニホンイシガメの飼育でもっとも重要なのは水質管理です。清流域に生息する種であるため、水質の悪化に非常に敏感です。特に皮膚病(水カビ病)にかかりやすく、水が汚れた環境では甲羅や皮膚に白い綿状のカビが発生しやすくなります。
水換えは週2〜3回、できれば毎日少量ずつ行うのが理想です。フィルターは上部式か外部式を使用し、物理ろ過と生物ろ過の両方がしっかり機能するものを選びましょう。
陸場は必須です。ニホンイシガメは他の2種以上に陸場での乾燥を好む傾向があります。バスキングスポットには紫外線(UVB)ライトを設置し、表面温度が30〜35℃になるように調整してください。紫外線はカルシウム代謝に不可欠で、不足するとクル病(代謝性骨疾患)を引き起こします。
ニホンイシガメの飼育で最も注意すべきこと:水質の悪化による皮膚病です。水換えをサボると、あっという間に甲羅や皮膚にカビが生えてしまいます。清潔な水を保つことが長期飼育の絶対条件です。
ニホンイシガメの保全状況
ニホンイシガメは環境省レッドリストで準絶滅危惧(NT)に指定されています。減少の原因は複合的で、以下のような要因が重なっています。
1. 生息地の消失:里山の荒廃、河川のコンクリート護岸化、棚田の放棄などにより、ニホンイシガメが好む自然環境が急速に失われています。
2. アカミミガメとの競合:餌・日光浴場所・営巣地をめぐってアカミミガメと競合し、体が小さく臆病なニホンイシガメが追いやられています。
3. クサガメとの交雑:同属であるクサガメとの間に交雑個体(ウンキュウ)が生まれ、純粋なニホンイシガメの遺伝子プールが汚染されています。
4. ペットとしての乱獲:かつては無秩序な採集が行われていました。現在はCB(繁殖個体)の流通が主ですが、違法な野生個体の採集も完全にはなくなっていません。
ニホンイシガメを飼育する場合は、必ずCB(国内繁殖)個体を信頼できるブリーダーから入手してください。野生個体の採集は、たとえ法律で明示的に禁止されていない地域でも、保全の観点から絶対に避けるべきです。
クサガメの特徴と飼育
クサガメとは ― 身近だけど実は外来種?
クサガメ(Mauremys reevesii)は、日本では古くから親しまれてきた亀ですが、近年の遺伝学的研究により、在来種ではなく江戸時代以降に朝鮮半島から持ち込まれた外来種である可能性が高いとされています。この説を裏付ける根拠として、江戸時代以前の文献にクサガメの明確な記述がないこと、日本産個体の遺伝的多様性が大陸産に比べて著しく低いことなどが挙げられています。
名前の由来は「臭亀」。危険を感じたときに後肢の付け根にある臭腺(しゅうせん)から強烈な臭いのする分泌液を出すことから名づけられました。この防御行動は特に若い個体で顕著で、成長するにつれて減少する傾向があります。
クサガメの外見的特徴
クサガメの甲羅は暗褐色〜黒褐色で、3本の明瞭なキール(隆起線)が縦に走っているのが最大の特徴です。ニホンイシガメのキールが1本なのに対し、クサガメは3本――この違いは甲羅を上から見れば一目瞭然です。
若い個体は甲羅に黄色い線状の模様が入り、これが美しいことから「ゼニガメ(銭亀)」の名前でペットショップで販売されてきました。ただし成長するとこの模様は薄れ、特にオスは全身が真っ黒(メラニズム化)になることがあります。この黒化は「黒化型」と呼ばれ、頭部・四肢・甲羅すべてが漆黒に変わる様子はかなり迫力があります。
サイズはニホンイシガメよりもかなり大きく、成体で甲長20〜30cmに達します。メスのほうがオスよりも大型になります。
クサガメの性格と飼いやすさ
クサガメは3種の中でもっとも温和で人馴れしやすい亀です。飼育下では飼い主の姿を見ると餌をねだって寄ってくるようになり、手から餌を食べるようになる個体も珍しくありません。この「懐く」性質が、長年にわたってペットとして人気がある理由のひとつです。
また、環境への適応力も高く、水質の変化にもニホンイシガメほど敏感ではありません。丈夫で病気にもかかりにくいため、亀飼育の入門種として最適です。
クサガメの飼育ポイント
クサガメの飼育で押さえるべきポイントは以下の通りです。
水槽サイズ:成体は甲長30cm近くになるため、90〜120cm水槽が必要です。子亀のうちは60cm水槽でも飼えますが、成長速度が速いので早めに大きな水槽を用意することをおすすめします。
水温:22〜28℃が適正範囲。水中ヒーターで管理します。冬眠させない場合は年間を通じて25℃前後を維持してください。
餌:亀用の配合飼料(レプトミン、キョーリン亀のエサなど)を主食とし、おやつとして乾燥エビ・煮干し・野菜(小松菜・チンゲンサイなど)を与えます。成長期の子亀は毎日、成体は2〜3日に1回の給餌で十分です。
臭腺の対策:購入直後や引っ越し直後はストレスで臭腺から分泌液を出すことがあります。これは人体に無害ですが、非常に臭いので、落ち着いた環境を用意してストレスを最小限に抑えましょう。個体が環境に馴れれば自然と分泌は減ります。
アカミミガメの特徴と条件付特定外来生物の問題
アカミミガメ(ミドリガメ)とは
アカミミガメ(Trachemys scripta elegans)は、北米原産の淡水亀です。正式和名はミシシッピアカミミガメで、目の後ろにある鮮やかな赤い斑紋が名前の由来です。日本では「ミドリガメ」の愛称で親しまれ、1960年代〜1990年代に大量に輸入・販売されました。
子亀の時期は甲長わずか3〜4cmで、鮮やかな緑色の甲羅と愛らしい姿から、縁日やペットショップで「500円ガメ」として手軽に売られていました。しかし成長すると甲長20〜28cm(メスは30cm超)にまで大きくなり、性格も気が強くなるため、飼いきれなくなって野外に放す人が後を絶ちませんでした。
なぜ「条件付特定外来生物」に指定されたのか
2023年6月1日、アカミミガメは外来生物法に基づく「条件付特定外来生物」に指定されました。これは、すでに数百万匹が飼育されている現状を踏まえ、「特定外来生物」のように一律に飼育を禁止すると大量の遺棄(放流)が発生する恐れがあるため、飼育の継続は認めつつ、拡散を防ぐという趣旨で設けられた新しい枠組みです。
条件付特定外来生物としてのルール(2023年6月1日以降):
◯ できること:現在飼育している個体の飼育継続(届出不要)
✕ できないこと:野外への放出、無償を含む譲渡、販売、購入、輸入
◯ 例外的にできること:無償で友人に譲渡(頒布等の目的がない場合)は可能
⚠ 違反した場合:3年以下の懲役または300万円以下の罰金(個人)、1億円以下の罰金(法人)
アカミミガメが日本の生態系に与える影響
アカミミガメは日本の生態系に以下のような深刻な影響を与えています。
1. 在来亀との競合:体が大きく繁殖力も旺盛なアカミミガメは、日光浴場所・餌・営巣地をめぐってニホンイシガメやクサガメを圧倒します。臆病なニホンイシガメは、アカミミガメがいるだけでバスキングを避けるようになるという研究報告もあります。
2. 水草の食害:成体のアカミミガメは大量の水草を食べるため、水辺の植生を大きく変えてしまいます。特にハス、ヒシ、マコモなどの在来水生植物への被害が深刻で、蓮池の壊滅事例が各地で報告されています。
3. 農業被害:水田の稲苗を食害することがあり、農業への被害も報告されています。
4. 在来生物全般への圧迫:魚類・両生類・水生昆虫なども捕食するため、水辺の生態系全体に影響を及ぼします。
すでにアカミミガメを飼っている場合の対応
すでにアカミミガメを飼っている方は、そのまま飼い続けてください。届出も不要です。ただし、以下の点を必ず守りましょう。
絶対に逃がさない:屋外飼育の場合は脱走防止対策を万全にしてください。アカミミガメは驚くほどの脱走能力を持っており、高さ30cm程度の壁なら軽々と乗り越えます。
飼えなくなっても放さない:引っ越しや高齢などで飼えなくなった場合は、自治体の窓口に相談してください。各自治体がアカミミガメの引き取り窓口を設けている場合があります。
繁殖させない:複数飼育している場合、繁殖した個体を譲渡することも原則違反になります。オスとメスを分けて飼育するなど、意図しない繁殖を防いでください。
外見での見分け方 ― 3種の識別ポイント
甲羅で見分ける
3種の見分けで最も確実な手がかりは甲羅です。
ニホンイシガメ:甲羅はオレンジ〜黄褐色で比較的明るい色合い。中央にキール(隆起線)が1本。後縁が鋸歯(ギザギザ)状になっている。甲羅の形状はやや扁平で、上から見ると楕円形に近い。
クサガメ:甲羅は暗褐色〜黒褐色。中央と左右にキールが3本走っている。ニホンイシガメと比べて甲羅がやや高く盛り上がる。老齢のオスは全身が真っ黒になる(メラニズム化)。
アカミミガメ:甲羅は濃い緑色〜暗緑色で、黄色い線状の模様が入る。キールは幼体では目立つが成体ではほぼ消失。甲羅の表面はツルツルとした質感で、他2種の和亀らしいザラザラ感とは明らかに異なる。
頭部で見分ける
頭部の模様は最も簡単な識別ポイントです。
ニホンイシガメ:頭部はオリーブ色〜暗褐色で、目立つ模様がないのが特徴。口元がわずかに上向きで「笑っているような」表情に見える。
クサガメ:頭部と首に黄色い線状の模様が入る。ただし老齢のオスでは黒化によって模様が消失することがある。若い個体では細い黄色い線が何本も走るのが目印。
アカミミガメ:目の後ろに鮮やかな赤い斑紋がある。これが最大の識別ポイント。頭部全体に黄色い縦縞が入り、3種の中で最も派手な頭部を持つ。
その他の識別ポイント
| 識別ポイント | ニホンイシガメ | クサガメ | アカミミガメ |
|---|---|---|---|
| 甲羅の色 | オレンジ〜黄褐色 | 暗褐色〜黒褐色 | 濃緑〜暗緑 |
| キール(隆起線)の数 | 1本 | 3本 | 幼体のみ(成体はほぼなし) |
| 甲羅後縁 | 鋸歯状(ギザギザ) | 滑らか | 滑らか |
| 頭部の赤い斑紋 | なし | なし | あり(最大の特徴) |
| 頭部の黄色い線 | ほぼなし | 複数の細い線 | 太い線 |
| 腹甲の色 | 黒褐色(縁に黄色) | 黒色 | 黄色に黒い斑紋 |
| 臭腺からの分泌 | あり(弱い) | あり(強烈) | なし |
| 最大甲長 | 約20cm | 約30cm | 約28cm(メスは30cm超も) |
飼育環境の比較 ― 水槽・水質・陸場の違い
水槽サイズの選び方
亀の飼育で最も重要な設備は水槽です。亀は魚と違って陸場も必要とするため、同じ体サイズの魚よりも大きな飼育容器が必要になります。
ニホンイシガメ:成体が最大20cm程度と小型なので、60〜90cm水槽で生涯飼育できます。ただし水質管理のしやすさを考えると、90cm水槽がおすすめです。水量が多いほど水質が安定しやすく、デリケートなニホンイシガメには大きなメリットです。
クサガメ・アカミミガメ:どちらも成体で20〜30cmに達するため、90〜120cm水槽が必要です。特に大型のメス個体には120cm水槽でも窮屈に感じることがあるため、衣装ケース(プラスチック製の大型容器)やトロ舟(園芸・建築用の大型容器)を活用する飼育者も多いです。
水質管理の違い
水質管理のシビアさは3種で大きく異なります。
ニホンイシガメ:もっとも水質に敏感。水が汚れるとすぐに皮膚病を発症します。週2〜3回の水換えを推奨。フィルターは上部式か外部式が必須で、投げ込み式では不十分です。pH6.5〜7.5の弱酸性〜中性を維持してください。
クサガメ:比較的水質の悪化に強い。週1〜2回の水換えで十分対応可能。ただし、餌の食べ残しは水質悪化の最大の原因なので、給餌後15分以内に残った餌は取り除きましょう。
アカミミガメ:非常に丈夫で水質の悪化にも強いですが、体が大きく食べる量も多いため、排泄量も多い。週1〜2回の水換えに加えて、強力なフィルターの設置を推奨します。外部式フィルターか、大型の上部式フィルターが適しています。
陸場(バスキングスポット)の設置
淡水亀にとって陸場は命綱です。亀は変温動物であり、体温調節のために日光浴(バスキング)が不可欠です。また、甲羅を乾燥させることで皮膚病やカビの予防にもなります。
陸場の面積は、水槽の水面面積の3分の1程度を確保するのが理想です。市販のタートルドック(亀用の浮島)や、レンガ・流木を組み合わせて作ることもできます。
陸場の上にはバスキングライト(表面温度30〜35℃になるように調整)と紫外線(UVB)ライトを設置します。UVBライトは亀がビタミンD3を合成するために不可欠で、これがないとカルシウムの吸収ができず、甲羅の変形や骨の軟化(クル病)を引き起こします。
特にニホンイシガメは陸場での乾燥を好む傾向が強く、他の2種よりも長時間バスキングを行います。陸場の表面は完全に乾燥した状態を保てるようにしてください。
餌の選び方と与え方の違い
3種とも雑食ですが、食性の傾向には違いがあります。
ニホンイシガメ:動物質を好む傾向が強く、配合飼料だけでは食いつきが悪いことがあります。乾燥エビ・乾燥イトミミズ・冷凍アカムシなどを配合飼料に混ぜて与えると、食いつきが改善します。成長期は毎日、成体は2〜3日に1回が目安です。食べ残しは必ず取り除いてください。水質悪化に弱いニホンイシガメにとって、餌の残りは最大のリスク要因です。
クサガメ:何でもよく食べる食いしん坊です。市販の亀用配合飼料(レプトミンなど)をメインに、おやつとして小松菜・チンゲンサイなどの葉野菜、乾燥エビ、煮干しなどを与えます。与えすぎると肥満になりやすいので注意。成体は3日に1回でも十分です。
アカミミガメ:幼体のうちは動物質を好みますが、成長するにつれて植物質も積極的に食べるようになります。配合飼料に加えて、レタス・水草・小松菜なども与えましょう。食欲旺盛で大食漢なので、餌の量は「5分以内に食べきれる量」を目安にしてください。
フィルターの選び方
亀の飼育では、魚の飼育以上に強力なフィルターが必要です。亀は魚の何倍もの排泄量があり、水の汚れ方が非常に早いためです。
上部式フィルター:メンテナンスが簡単で、60〜90cm水槽に最適。ニホンイシガメの飼育にはこれで十分です。
外部式フィルター:ろ過能力が高く、90cm以上の水槽に最適。クサガメ・アカミミガメのような大型種にはこちらを推奨します。ただし亀がホースを噛んで水漏れを起こすことがあるので、ホースの保護対策が必要です。
投げ込み式フィルター:物理ろ過のみで生物ろ過が弱いため、亀の飼育にはサブとしての使用にとどめるべきです。メインのフィルターとしては力不足です。
冬眠の違い ― 種ごとのリスクと対応
冬眠とは何か
淡水亀の冬眠は、水温が10℃以下になると代謝を極限まで下げ、水底の泥や落ち葉の下でほとんど動かずに冬を越す行動です。心拍数は通常の10分の1以下まで低下し、呼吸もほぼ停止します。この間のわずかな酸素は皮膚(特に喉や総排泄腔の粘膜)から取り込みます。
冬眠は自然界では繁殖サイクルと密接に関わっており、特にオスの精子形成や、メスの卵の成熟に冬の低温期間が必要とされています。しかし飼育下では、冬眠させなくても繁殖は可能であり、冬眠にはリスクも伴うため、その判断は慎重に行う必要があります。
ニホンイシガメの冬眠
ニホンイシガメは日本の気候に適応した在来種であり、冬眠は自然な行動です。屋外飼育の場合は自然に冬眠に入ります。室内飼育の場合も、繁殖を目指すなら秋から徐々に水温を下げて冬眠させることが推奨されます。
ただし、体力のない個体・病気の個体・その年に生まれた幼体は冬眠に耐えられず死亡するリスクがあります。冬眠させる場合は、秋のうちにしっかり餌を食べさせて体力をつけ、体重が十分にあることを確認してからにしてください。
クサガメの冬眠
クサガメは3種の中でもっとも冬眠に強い亀です。丈夫な体質と環境適応力の高さから、屋外飼育で自然に冬眠させても問題が起きにくい傾向があります。
ただし、これは健康な成体に限った話です。病弱な個体や栄養状態の悪い個体を冬眠させるのは危険です。また、冬眠中の水が完全に凍結してしまうと死亡するため、水深を十分に確保(最低15cm以上、できれば30cm以上)し、底まで凍らないようにする配慮が必要です。
アカミミガメの冬眠
アカミミガメは北米南部の温暖な地域が原産であり、日本の厳冬には本来適応していません。しかし野外に定着した個体は日本の冬を冬眠で乗り越えており、寒冷地を除けば冬眠は可能です。
飼育下では、冬眠させるかどうかは飼育者の判断に委ねられます。加温飼育(ヒーターで年中25℃前後を維持)のほうが安全ですが、冬眠させることで体内時計がリセットされ、繁殖行動が活発になるという報告もあります。
冬眠させる場合の注意点はクサガメと同様ですが、アカミミガメは体が大きいぶん冬眠中の体力消耗も大きく、秋にたっぷり餌を食べさせて脂肪を蓄えさせることが特に重要です。
冬眠の可否まとめ:
ニホンイシガメ:自然な行動。健康な成体なら可能
クサガメ:もっとも安定。丈夫で冬眠に強い
アカミミガメ:可能だが慎重に。加温飼育のほうが安全
⚠ いずれの種も、幼体・病気個体・栄養状態の悪い個体は冬眠禁止。加温飼育で冬を越させてください。
交雑問題 ― ウンキュウの脅威
ウンキュウとは
ウンキュウとは、ニホンイシガメとクサガメの種間交雑個体のことです。両種は同じイシガメ科イシガメ属(Mauremys)に分類され、遺伝的に近縁であるため、自然環境下でも飼育下でも交雑が起こります。
ウンキュウは両親の中間的な形態を持ち、繁殖能力があることが大きな問題です。多くの動物では異種間の交雑個体(雑種)は不妊ですが、ウンキュウは正常に繁殖でき、さらにニホンイシガメやクサガメとの戻し交雑(バッククロス)も可能です。
なぜ交雑が問題なのか
交雑が進行すると、純粋なニホンイシガメの遺伝子が失われていく「遺伝的汚染(遺伝的浸透)」が起こります。これは単に「似た亀が増える」という話ではありません。数百万年かけて日本の環境に適応してきたニホンイシガメという種そのものが消滅することを意味します。
交雑によって生まれたウンキュウは外見こそ両親の中間的な特徴を示しますが、遺伝的にはニホンイシガメの固有遺伝子とクサガメの遺伝子がモザイク状に混在しています。これが数世代にわたって繰り返されると、純粋なニホンイシガメの遺伝子プールは徐々に希釈されていきます。とりわけ問題なのは、ウンキュウの外見がニホンイシガメに似ている場合、外見だけでは判別ができないまま交雑が拡大してしまう点です。
遺伝子解析による調査では、関東・近畿の一部地域で見つかるニホンイシガメの中に、すでにクサガメの遺伝子が混入している個体が確認されています。外見上はニホンイシガメに見えても、遺伝的には純粋でない――こうした「見えない汚染」が静かに広がっているのです。
交雑を防ぐために
飼育者としてできることは以下の通りです。
1. 同じ水槽で飼わない:ニホンイシガメとクサガメを同じ水槽で飼育すると交雑の可能性があります。両種を飼育する場合は必ず別々の水槽で管理してください。
2. 逃がさない・放さない:飼育個体の逃亡は、野外の在来個体との交雑リスクを生みます。脱走防止対策を徹底してください。
3. ウンキュウを見つけたら:野外でウンキュウを発見した場合、地域の自然環境保全団体や環境省の窓口に情報を提供してください。
おすすめ飼育用品
亀の飼育を始めるために必要なもの
亀の飼育に最低限必要な用品は以下の通りです。
水槽(60〜120cm、種と成長段階に応じて選択)、フィルター(上部式または外部式)、水中ヒーター(サーモスタット付き)、バスキングライト(保温用スポットライト)、紫外線(UVB)ライト、陸場(タートルドックまたはレンガ・流木)、水温計、カルキ抜き。
初期費用は最低でも15,000〜30,000円程度はかかりますが、亀は20年以上生きる動物です。最初にしっかりした環境を整えることが、長期飼育の成功につながります。
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よくある質問(FAQ)
Q. ニホンイシガメとクサガメは同じ水槽で飼えますか?
A. おすすめしません。同属であるため交雑(ウンキュウ)が起こるリスクがあります。また、クサガメのほうが体が大きく気も強いため、ニホンイシガメがストレスを受けやすくなります。必ず別々の水槽で飼育してください。
Q. アカミミガメを新しく購入することはできますか?
A. 原則できません。2023年6月1日以降、アカミミガメの購入・販売は条件付特定外来生物の規制により禁止されています。すでに飼育している個体の飼育継続は届出不要で合法ですが、新たに入手することは違法となります。
Q. 川で捕まえた亀がどの種かわかりません。見分ける方法は?
A. まず目の後ろに赤い斑紋があればアカミミガメです。なければ甲羅のキール(隆起線)を確認してください。1本ならニホンイシガメ、3本ならクサガメの可能性が高いです。ただし交雑個体(ウンキュウ)の場合は中間的な特徴を示すため、確実な同定にはDNA分析が必要な場合もあります。
Q. 亀に紫外線ライトは本当に必要ですか?
A. 必須です。紫外線(特にUVB)がないと亀はビタミンD3を合成できず、カルシウムの吸収ができなくなります。その結果、甲羅の軟化・変形や骨の異常(クル病)を引き起こし、最悪の場合は死亡します。屋外で十分に日光浴ができる環境以外では、必ず紫外線ライトを設置してください。
Q. 亀の冬眠は必ずさせなければいけませんか?
A. 必須ではありません。飼育下では水中ヒーターで年間を通じて25℃前後を維持する「加温飼育」が可能です。冬眠にはリスクも伴う(体力不足の個体が死亡する可能性)ため、特に初心者は加温飼育をおすすめします。ただし、繁殖を目指す場合は冬眠経験が繁殖成功率を高めるとされています。
Q. 亀が餌を食べなくなりました。原因は何ですか?
A. 主な原因は水温の低下(20℃以下になると食欲が激減)、ストレス(新しい環境への不慣れ、騒音、振動)、病気(呼吸器感染症、消化器トラブル)、冬眠準備(秋に食欲が自然に落ちる)です。まず水温を確認し、25〜28℃に調整してください。それでも3日以上食べない場合は動物病院(爬虫類対応の獣医)の受診を検討してください。
Q. クサガメの臭いが気になります。対処法はありますか?
A. クサガメの臭腺からの分泌はストレス反応です。新しい環境に移した直後や、無理に持ち上げたときに出やすくなります。対処法としては、(1)環境に馴れるまで必要以上に触らない、(2)水槽を静かな場所に置く、(3)隠れ場所を用意する、などが効果的です。馴れてくれば自然と臭いを出さなくなります。
Q. 亀の甲羅が白くなってきました。病気ですか?
A. 白い綿状のものが付着しているなら水カビ病の可能性が高いです。水質の悪化が主な原因です。早急に水を全換えし、患部をイソジン(ポビドンヨード)の10倍希釈液で消毒してください。症状がひどい場合は爬虫類に対応した動物病院を受診しましょう。甲羅全体がうっすら白い場合は、脱皮の可能性もあります。
Q. アカミミガメが卵を産みました。どうすればよいですか?
A. アカミミガメは条件付特定外来生物であるため、孵化させて増やすことは推奨されません。孵化した個体を譲渡することも原則違法です。卵は冷凍処理などで孵化を防ぐのが適切な対応です。自治体の環境課に相談すると具体的な対処法を教えてもらえます。
Q. 亀の寿命はどのくらいですか?飼育前に覚悟しておくことは?
A. ニホンイシガメは20〜30年、クサガメは30〜50年、アカミミガメは20〜40年が飼育下での目安です。つまり犬や猫よりもはるかに長生きします。飼い始めるということは、10年後、20年後、場合によっては30年以上にわたって責任を持つということです。転勤・引っ越し・結婚・子育て・介護――ライフステージが変わっても飼い続けられるか、事前に真剣に考えてください。
Q. ウンキュウ(交雑個体)を飼ってしまっているかもしれません。見分け方は?
A. ウンキュウはニホンイシガメとクサガメの中間的な形態を示します。キールの本数が1〜3本の中間であったり、甲羅の色がどちらにも属さなかったり、甲羅後縁のギザギザが曖昧であったりします。ただし外見だけでは判断が難しい場合が多く、確実な判定にはDNA分析が必要です。大学の研究室や博物館に相談すると検査してもらえる場合があります。
Q. 亀を屋外で飼育する場合の注意点は?
A. 屋外飼育の最大のメリットは自然の太陽光による紫外線照射ですが、注意点も多いです。(1)脱走防止:亀の登攀能力は非常に高く、特にアカミミガメは30cm以上の壁も乗り越えます。柵の高さは最低40cm以上、上部にも返しを付けてください。(2)天敵対策:カラス・猫・タヌキなどに襲われることがあります。金網で上部を覆いましょう。(3)水温管理:夏は直射日光で水温が急上昇するため、必ず日陰を確保してください。
まとめ ― 3種を正しく理解し、責任ある飼育を
この記事のポイント
日本の水辺で出会える淡水亀3種――ニホンイシガメ・クサガメ・アカミミガメ――は、見た目が似ているようでまったく異なる生き物です。
ニホンイシガメは日本固有の宝であり、準絶滅危惧種。水質に敏感で飼育難易度は高めですが、その美しいオレンジ色の甲羅と奥ゆかしい性格は、他の亀にはない魅力です。
クサガメは温和で人懐っこく、丈夫で飼いやすい。初心者にもっともおすすめの亀ですが、外来種の可能性があること、ニホンイシガメとの交雑問題があることを忘れてはいけません。
アカミミガメは2023年から条件付特定外来生物に指定されました。すでに飼育中の方はそのまま飼い続けられますが、新たな購入は原則禁止です。日本の生態系への影響は深刻であり、絶対に野外に放さないことが飼育者の最低限の義務です。
飼育者として心がけてほしいこと
亀は20〜50年生きる動物です。犬や猫よりも長い付き合いになることを覚悟してから飼い始めてください。そして以下の3つを必ず守ってください。
1. 逃がさない:脱走防止対策を万全に。飼育個体の野外への流出は、在来種の脅威となります。
2. 増やさない:特にアカミミガメの繁殖は、個体の行き場がなくなる原因に。異種の混合飼育も交雑のリスクがあります。
3. 最後まで飼う:飼えなくなったら自治体の窓口に相談を。決して川や池に放さないでください。


