熱帯魚と聞いてネオンテトラやグッピーの他に、各ヒレが伸長する「エンゼルフィッシュ」を思い浮かべる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
エンゼルフィッシュはポピュラーなシクリッドの仲間であり、現在ショップでよく見かける彼らのほとんどが改良品種です。
改良品種の元になったのは「スカラレ種」であり、他に「ドゥメリリィ種」「アルタム種」が野生種です。
今回はその中でも最も飼育が難しく美しい種類と言われるアルタムエンゼルフィッシュについて皆様にご紹介させていただきます。
アルタムエンゼルフィッシュは「熱帯魚の女王」と呼ばれるエンゼルフィッシュの中でも気品と気高さを感じられる姿からマニアから高い支持を獲得しており、女王どころか「女帝」と言っても過言ではありません。
1,圧倒的存在感!アルタムエンゼルフィッシュの特徴について
①生息地
アルタムエンゼルフィッシュは南米の「オリノコ川」と「ネグロ川」に生息しており、ブラックウォーターになっている事で有名なネグロ川に生息している個体は「ネグロアルタムエンゼル」と分けて呼ばれる事があります。
②どのくらいの大きさ?
アルタムエンゼルはエンゼルフィッシュの中で最も大きな種類と考えられており、成魚の全長は15cm以上、体高は30cmにもなるため大型水槽が必須となります。
③どんな見た目をしているの?
アルタムエンゼルの体は平たく、最も菱形に近い形状をしています。
成魚になると額が窪むため口元がシャープになり、他のエンゼルとは違い威圧感があります。
また、胸ビレを除いた各ヒレは成長とともに長く伸び、エッジが鋭いため同じ野生種であるスカラレ種とドゥメリリィ種に比べるとかなりカッコ良い姿をしています。
このヒレは水槽の高さも広さも確保できていないと美しく伸びず、途中で切れたり歪んだりしてしまいます。
体色はやや暗めの銀色に茶褐色のバンドが4本ほど入り、その間を緑がかった淡い褐色の細めのバンドが入ります。
④どんなに物を食べているの?
野生下では小型の落下昆虫やイトミミズなどの水生生物、ミジンコやエビなどの小型甲殻類、口に入るサイズの小魚などを捕食しています。
飼育下では人工飼料にも慣れてくれるようですが、動物質の餌を好んでいるため冷凍アカムシやイトミミズも与える必要があります。
⑤どんな性格をしているの?
アルタムエンゼルは協調性が全く無いという訳ではありませんが、水質の変化や病気に対して非常に脆弱という特徴があるため他種との混泳のリスクが別の意味で高いため同種との群泳が主になります。
また、混泳できたとしてもネオンテトラなどの小型種は捕食されてしまったり、スマトラなどはアルタムエンゼルを追いかけてヒレを齧りノイローゼにしてしまうため混泳はできません。
⑥どこでお迎えできる?大体のお値段は?
アルタムエンゼルは飼育難易度の高さからワイルド種の中でも流通が少ないため、珍しい種類やシクリッド系にも強いアクアショップや総合ペットショップでのお迎えが主になります。
⭐奇跡のブリード個体がいる!
飼育難易度が最高レベルの熱帯魚・アルタムエンゼルですが、熱心な愛好家の努力によって少数ながらブリード個体が流通するようになりました。
ブリード個体であっても難易度は高めですが、ワイルド個体よりは値段も安く、体も多少丈夫で飼育しやすくなっています。
2,アルタムエンゼルの飼育で注意すべき点について
水質の変化に敏感な熱帯魚にはディスカスやフィダルゴ、プラニセプスなどがいますが、アルタムエンゼルはそれ以上に敏感であり、飼育環境がちょっとでも崩れると全滅してしまう事も珍しくありません。
〜注意点のまとめ〜
- 導入してしばらくは低めのph(5.2〜5.6くらい)を保つ事。
- 低電気伝導度の水を保つ事。
- 他種との混泳は避ける事。(他種が保有する菌から病気になりやすい)
- 薬品にも弱いため、絶対病気を出さないつもりで飼育環境を維持する事。
- 水質の変化に敏感過ぎるので水合わせや水換え時も慎重かつ時間をじっくりかけて行う事。
「低電気伝導度の水」ですが、簡単に言うと「不純物が少ない水」の事です。
3,アルタムエンゼルの飼育方法について
①お迎え
最近では通販で状態が落ち着いた個体を購入する事もできるようになりましたが、ショップで見つけた場合はヒレが不自然に溶けたり裂けたりしていないか、体表に付着物や充血がないか、ウロコが逆立っていたり白く変色していないか、泳ぎ方がおかしくないかなどをチェックします。
②水槽、フタ
アルタムエンゼルはヒレがかなり伸長する種類なので大型水槽が必須となります。
数匹であれば120cm水槽でも飼育は可能ですが、それより多い数を飼育する場合は180cm以上の水槽での飼育が水質の急変も少なくて無難です。
フタについてですが、アルタムエンゼルはあまり飛び出す種類ではありませんが、何かに驚いて暴れると水飛沫が凄く、床が水浸しになる事もあるのでできればフタを用意したいものです。
■水槽の設置場所には注意が必要!
アクアリウムにおいて水槽の設置場所は大切な要素の1つです。
ちゃんと水平か、温度が変わりやすくないか、ドアの近くなど振動を伝えやすくないか、直射日光は当たらないかなど結構チェックすべきポイントは多いです。
大型水槽の場合はそれらにプラスして「床がフルセットの水槽の重さに耐えられるか」が重要なポイントになっており、中には大型水槽を設置するために家の基礎を打ち直したり、補強する方もいます。
また、大型水槽は飼育器具もそれなりに揃えなければならず、水槽台(キャビネット)や吊り下げ式ライトなども設置する事が多いため、全重量が1tを越える事もあります。
③水合わせ、導入
アルタムエンゼルの水合わせは時間をかけて慎重に行わないと、水質の変化に過敏に反応してショック状態に陥る事も珍しくありません。
まずはパッキングしたまま水面に30分ほど浮かべて水温を合わせます。
次に大型のバケツや衣装ケースに開封し、水合わせキット(エアチューブと調節弁)、酸欠防止のためにエアレーションをかけながら水合わせをします。
バケツ内に流れる水の量は1〜2秒に1滴レベルで調節し、数時間かけて水合わせをしつつ彼らの動静に気を付ける必要があります。
水合わせが終わった大きい計量カップなどを使って掬い、水槽に移動させましょう。
滅多にありませんが、お迎えしたのが成魚の場合は誰かに手伝ってもらいながらバケツを持ち上げてゆっくり移すか、スピード勝負で毛羽立ちのない大型ネットで掬って移します。
④水温、水質
エンゼルフィッシュの中では低水温を好み、高水温に弱い特徴があります。
サーモスタット付きヒーターを使い、20〜25℃くらいに保つようにしましょう。
水質は弱酸性で、phを低めに保つようにします。特にネグロ川産のアルタムエンゼルはphが下げれていないとすぐに体調を崩すため注意が必要です。
⑤底砂
水質をアルカリ性に傾ける作用がある砂でなければ飼育に使う事ができます。
⑥フィルター
大型水槽での飼育が基本となるため、使うフィルターは外部式フィルターかオーバーフローフィルターになります。
不純物や汚れを嫌うため、水換えや日々のメンテナンスの時にフィルターを確認してウールマットやスポンジに汚れが溜まっている場合は飼育水で軽く洗って目詰まりを解消する必要があります。
⑦水草
アルタムエンゼルは水草にイタズラする種類ではないので水草レイアウトにも良く映えます。
「アマゾンソード」や「ラージリーフ・ハイグロフィラ」などは育てやすく入手もしやすいです。
本種はベアタンクで飼育するというストイックな飼育方法もあるのですが、水草は水中に溶け込んだ栄養分などを吸収してキレイにする働きがあるため、美しい水景と水質を維持するためにも筆者的には水草は必要だと思います。
⑧ライト
様々な種類があり、水草の栽培や昼夜のメリハリをつける働きがある飼育機材です。
⑨給餌
アルタムエンゼルは人工飼料にも慣れてくれますが、動物質のものを特に好むため与える頻度なども考える必要があります。
何故なら動物質の餌は人工飼料より水を汚しやすいという特徴があるからです。
人工飼料はフレークタイプもペレットタイプもよく食べてくれるので形状の心配はありませんが、可能であれば体内の調子を整える善玉菌入りのものを与えるとエロモナス菌などの一部の菌の増殖を抑え、免疫力向上により病気になりにくい状態で育てやすくなります。
乾燥ミジンコやアカムシ、イトミミズ、砕いたクリルへの反応も良いですが、浮上性なので水槽の壁に張り付いて悪くなる事もあるので与えた後はこまめに取り除くようにしましょう。
冷凍アカムシやイトミミズなどは別容器で解凍した後、ネットに移し、飼育水を入れた容器に入れてから与えると余分な汚れを水槽に入れずに済みます。
また、動物質メインの餌を与える場合は水質管理に慣れていない間は1週間に1度くらいにすると水の管理も少し楽になります。
管理に慣れてきたらアルタムエンゼルの体調や肉付きを観察しながら与える頻度を増やしても大丈夫です。
与え方はスポイトで水流に乗せるようにしてください。
給餌の間隔ですが大体の目安として、幼魚の頃は1日1〜2回、成魚の場合は1〜2日に1〜2回、体型や状態を見ながら数分で食べきれる量を与えます。
お腹が軽くふっくらしてきたら腹八分目くらいなので与え過ぎないようにしましょう。与えすぎると餌を残してしまい、水質悪化の大きな原因になってしまいます。
⭐女帝がデレた!
熱帯魚の王様・ディスカスも飼育難易度は高めですが人に慣れやすく、水槽を眺めていると興味を持って寄ってくる事があります。
しかし、熱帯魚の女帝・アルタムエンゼルはどちらかと言うと神経質で「ツンデレ」「クーデレ」のような性格をしているため、すぐに人に慣れるという事は少ないです。
しかし、女帝が喜ぶ飼育環境を整え、餌もしっかり与えれば、今まで涼しげに泳ぎ人を避ける事もあったのに少しだけ近付いてきたり、少し離れた所にいる飼い主を見つけるとチラチラと見てくる事があります。
⑩水換え、水槽掃除
水換えや水槽掃除は飼育環境を整えるための大切なお世話の1つであり、水質の変化に敏感な種類であっても基本的にはそこまで苦戦を強いられる事はありません。
しかし、アルタムエンゼルなどの水質の変化に超敏感な種類の場合は導入時と同じレベル、またはそれ以上の難関になってしまいます。
大型水槽なので一気に水質が悪化したり大量の水換えが必要になる事はありませんが、目安として10日〜2週間に1度、1/12〜1/10の量の水換えをします。
信じられないかも知れませんが、このくらいまで量を制限しないと新しい飼育水を足した時の水質の変化で大ダメージを受けてしまう事があり、場合によってはショック状態になって死んでしまいます。
まずはライトを消灯してヒーター以外の飼育器具の電源を切り、フタなどの割れやすい物は安全は場所に移動させます。
掃除の準備が整ったら、スクレイパーやメラミンスポンジなどで水槽の壁面についたヌメリやコケなどの汚れを擦り落とします。
レイアウトに入れている石や流木が汚れている場合は歯ブラシなどで汚れを落としますが、レイアウトの変更を考えている場合は水槽から取り出してからタワシなどで洗います。
この時、結構な大きさの石や流木だとかなりの重さになるので取り出す時も注意が必要です。
自分1人ではどうにもならない時は理解のある家族や友人に手伝ってもらい、安全に作業するようにしましょう。
レイアウトしている水草が成長し過ぎている場合はアクアリウム用のトリミングシザーでトリミングし、長さを調節したり、枯れ葉などを取り除きます。
この時、アルタムエンゼルの長いヒレが水草に紛れてしまい、切ってしまうリスクがあるのでよく観察して彼らを傷付けないように注意が必要です。
大体の掃除が終わったらクリーナーポンプで水を抜きます。水を多く抜きそうという心配がある方は、あらかじめ水槽にマーカーなどで印を付けておくと安心です。
水抜きが終わったら、新しい水を水槽に足していきます。
カルキ抜きや温度合わせもしておくのですが、不純物テスターで計測して低電気伝導になっている事も確認しておきましょう。
最近では水道水に含まれている不純物をある程度取り除く器具も市販されているので、アルタムエンゼルを飼育したい方は使った方が楽になります。
足し水をする時は、できれば水槽より高い位置に新しい水を運び、水合わせキットを使って時間をかけながら足した方が与えるダメージは少ないです。
難しい場合は様子を見ながらコップなどで少しずつ足していきます。
⭐飼育環境がバッチリなら水換えは1ヶ月に1度でも良い!?
コレも信じられないかも知れませんが、極論飼育環境がバッチリ整っていれば頻繁に水槽掃除や水換えはしなくても良いです。
目安として1〜2週間に1度とは書いていますがあくまで「目安」であり、生物濾過も働き常に魚も元気な状態でテスターの結果も良好であれば、この範疇ではありません。
熟練者の中には1ヶ月に1度、少量の水換えだけで済むほど飼育環境を整えている方もいます。
4,アルタムエンゼルがかかりやすい病気について
飼育難易度が高いものの美しい姿と気高さから人気があるアルタムエンゼル。
時々流通するブリード個体はそんな彼らを状態良く飼育したからこその貴重な存在と言えます。
しかし、彼らが他の熱帯魚と比べて病気になりやすいのは事実であり、水質の変化に敏感過ぎて治療ができない事がほとんどです。
そのためアルタムエンゼルの飼育では「飼育環境を徹底して病気を出さない事」が本当に重要です。
①エロモナス症
「ポップアイ」「松かさ病」「穴あき病」などとも呼ばれる病気であり、他の熱帯魚であっても致命的なダメージを与える事でも知られています。
アルタムエンゼルの場合は特に「穴あき病」にかかりやすく、次に「松かさ病」「ポップアイ」と続きます。
初期症状では体表やヒレに充血が見られ、幼魚の時は体色が薄く明るいため見つけやすいのですが、体色が出ている成魚の場合は充血が体色で隠れてしまうため発見が遅れてしまう事があります。
松かさ病の場合は徐々にウロコが逆立っていくのですが、穴あき病はウロコが少しずつ白濁し、ボロボロと剥がれてしまいます。
さらに症状が進行すると、ウロコの下の組織が溶け爛れ、筋肉組織が剥き出しになってしまいます。
②アルタム病
「エンゼル病」や「ディスカス病」の一種と考えられていた事がありますが、この2種類の病気は「エンゼルエイズ」「ディスカスエイズ」とも呼ばれているためウイルスが原因と考えられます。
特にネグロ川原産のアルタムエンゼルがかかりやすい事でも知られており、発症すると数日で死んでしまいます。
生息していたネグロ川はブラックウォーターであり、その成分の中に殺菌作用を持つものが含まれています。
この作用により病原菌は殺菌され、ネグロ川に住まう魚達はその恩恵を受けて病気にならずに済んでいます。
しかし、殺菌作用が十分ではない飼育下ではそれが仇となり、病気に対して非常に弱くなってしまうのです。
アルタム病が発生したらオキソリン酸系の薬品による薬浴をすれば治療できるという話もあります。
③カラムナリス症
水温の急変や水質の悪化、怪我などが原因で発生する病気で、エロモナス症と同レベルの危険度を誇ります。
症状によって「尾腐れ病」「口腐れ病」「エラ腐れ病」と呼ばれますが、アルタムエンゼルなどのエンゼルフィッシュは尾腐れ病の症状が出やすく、同じ症状が各ヒレに現れる事もあります。
初期症状は体表やヒレに一部に白〜黄色っぽい形容しがたい付着物が現れ、充血も確認できます。
さらに症状が進むとヒレ先などの患部が溶けてボロボロになってしまい、最終的に死んでしまいます。
まとめ
今回は熱帯魚の女帝・アルタムエンゼルフィッシュについて皆様にご紹介させていただきました。
アルタムエンゼルは飼育難易度がかなり高いため、その美しい姿を観賞するのは並み大抵の事ではありません。
しかし、広い水槽としっかりとした濾過、水質にこだわり飼育環境を整える事ができれば飼育する事ができます。
また、ブリード個体は比較的飼育はしやすいので、ワイルドにこだわらないのであればブリード個体の方がオススメです。
アルタムエンゼルの成魚の姿は他の野生種のエンゼルフィッシュよりどこか凛とした雰囲気があり、貫禄があります。
しかし、病気や水質変化に弱いという性質はどこか儚げであり、飼育するのであれば、あらゆる災厄を打ち破ってあげて安心させてあげたいものです。