はじめに
突然ですが、今回はとある「珍しいカエル」について皆様にご紹介させていただきます。
このカエルは現在進行形で我が家で飼育、繁殖を手掛けている種類であり、日本への入荷も久しぶり、そのほとんどがヨーロッパで繁殖された個体という「珍種」です。
その名も「ピパ・パルヴァ」。
マニアに人気のある「完全水生」のカエルであり、名前からピンと来た方もいらっしゃるかも知れませんが、言わずと知れた怪蛙「ピパ・ピパ」の仲間でもあります。
しかし、ピパ・ピパの仲間とはいえ、彼らは独自の可愛らしさがあり、ユーモアたっぷりな生態や見た目は魚だろうと他の両生類だろうと追随を許しません。
1,そもそも『ピパ・パルヴァ』とは何ぞや?
ピパ・パルヴァは「無尾目無舌亜目」の「ピパ科ピパ属」に分類される完全水生のカエルの仲間です。
私達が田んぼや雨上がりの道でよく見かける「ニホンアマガエル」や「トノサマガエル」のようなカエルは水場以外にも陸上で生活する事ができますが、ピパの仲間は陸上で活動する事に完全に適応しておらず、一生のほとんどを水中で過ごすという特徴があります。
また、「無舌」が示す通り口の中に舌がありません。
「ピパ・ピパ」はピパ科ピパ属の代表種かつ基本種であり、その大きさは15cm前後まで成長しますが、『ピパ・パルヴァ』はピパの仲間の最小種とされており、その大きさは鼻先からお尻までメスで約4〜5cm、オスで3〜4cm程しかなく、脚を伸ばしても10cm以下という小ささです。
体は押し潰されたかのように扁平で、体色は薄い赤紫や灰色、やや光沢のある薄ベージュ色の大理石模様をしており、この細かさや複雑さにはかなり個体差があります。
ピパは「コモリガエル(子守りカエル)」という和名があり、ピパ・ピパは「ヒラタコモリガエル」ですが、ピパ・パルヴァは小さな体から「ヒメコモリガエル」という和名があります。
生息地は南米の流れが緩やかな河川や湖、湿地帯とされており、水底の泥や小石等に擬態して暮らしています。
☆他にもこんな呼び方が!
流通名は様々なものがあり、そのネーミングセンスが問われる部分もあります。
このブログでは学名そのまま「ピパ・パルヴァ」と表記していますが、実際ショップでもそのまま流通名になっています。
そんなパルヴァは他にも流通名があり、体の大きさから「ヒメピパ」「マメピパ」「ドワーフピパ」と呼ばれる事もあります。
☆つぶらな瞳と指先がチャームポイント!
ピパ・パルヴァに限った話ではありませんが、生息地となっている場所は水が濁っていたりブラックウォーターで視界が悪いようで、目はとても小さくなっています。
この小さな目も可愛らしいのですが、そんな環境の中で餌を見つけ、捕食するのは大変です。そこで活躍するのが「指先」です。
ピパの仲間はこの指先が小さく枝分かれした敏感な感覚器官になっており、水中の振動や餌の匂い、感触などを感じ取っています。
この指先の器官は枝分かれの仕方や長さなどで種の見分けにも使われていますが、その形は「小さな星形」になっています。
☆水中での待機ポーズが独特!
カエルはお行儀良く座っているイメージがあると思いますが、ピパ達は他のカエル達のように座っているというよりは「伏せている」ポーズが多いです。
しかし、場合や気分によっては立ち上がって「バンザイポーズ」だったりネコのように手足を隠して「香箱座り」をしている事もあります。
また、元気でやる気に満ち溢れている時の手はラッパーのように「HEY!」という感じになっています。
■ヤツとは違うのだよ!ヤツとは!
ピパ・パルヴァを見ると大体の方が「あるカエル」を思い浮かべてしまうかも知れません。
それは要注意な外来種「アフリカツメガエル」です。このカエルも一応無舌亜目でピパ科ではありますが、それ以外は全くの別種です。
アフリカツメガエルのように硬いツメはピパ・パルヴァにはありませんし、何より繁殖方法に「決定的な違い」があります。
ちなみどちらも産卵はしますが、ツメガエルはアマガエルやアメガエルのように大量に卵を産みまくり、その後は放置です。
ここで皆様、少し記事を遡ってみてください。ピパ達の和名は何なのか、他のカエルと違い「何をする」カエルなのか。
これが決定的な違いです。
2,ピパ・パルヴァの飼育の注意点について
ピパ・パルヴァはかなり珍しい種類ではありますが、飼育に関してはヤドクガエルや一部のツリーフロッグほど神経質になる必要はありません。
むしろ底生の熱帯魚を飼育するような気持ちで飼育でき、見た目から想像できないほど丈夫なので初めての水生ガエル飼育にも向いていると思います。
◆ピパ・パルヴァ飼育の注意点◆
- 必ずフタをする事。(←超重要!)
- 定期的に水換えをする事。
- フィルターを使う場合は水量を強くし過ぎないようにする事。
- 複数匹飼育する場合はプラケースに小分けにするか、よく観察して雌雄を見分け、性別ごとに分けて飼育する事。(←繁殖狙いではない場合)
- 人工飼料に慣れていない個体も多いので、冷凍飼料か乾燥飼料を用意する事。
完全水生の彼らは、見た目に似合わず脚力が非常に強く、フタをしていないと垂直に飛び上がった時に簡単に脱走してしまいます。
また、水中で暮らす事に特化しているため乾燥に非常に弱く、脱走して見つからないと弱ってしまったり干からびて死んでしまうというパターンもあります。
3,ピパ・パルヴァの飼育方法について
①飼育容器について
ピパ・パルヴァは小型種なので、それほど大きな飼育容器でなくても飼育する事ができます。
水槽で飼育するのも良いですが、個人的には通気性の良いフタも付いてくるプラケースがオススメです。
複数飼育する場合はフラットタイプも良く、泳ぐスペースを確保してあげましょう。
Q,水位はどのくらいが良いの?
A,水位は最低でも10cm以上あった方が好ましく、むしろ浅すぎは注意!
しかし、ピパ・パルヴァにはそんな気遣いは無用です。元々水底で暮らしている彼らは呼吸の時だけ浮上するのですが、水中生活に適応しているため呼吸の仕方が上手く、強力な脚力で一気に浮上して呼吸する事ができます。そのため水位は深めを心がけ、最低でも10cm以上が好ましいです。
むしろ気を遣い過ぎて水位を浅くしてしまうと、その分水量が少なくなって水が汚れやすくなってしまったり、パルヴァ達が水の少なさからストレスを感じてビョンビョン跳ねて暴れる原因にもなってしまいます。
②水温、水質について
ピパ・パルヴァは南米の水中に生息しているため、熱帯魚と同じくらいの水温で飼育できますが、20℃以下でなければある程度適応してくれます。
我が家では21〜26℃で飼育していますが、これで繁殖まで成功しています。室温の変化が少ない場所であれば無加温飼育もできますが、変化が激しいのであればヒーターにカバーを装着して使うと水温も保て、火傷の防止にもなります。
水質ですが、中性〜弱酸性の水質であれば問題無く飼育できます。また、成体、変態後の子ガエルであればカルキ抜きをしていない水道水をそのまま使う事ができます。
③底砂について
我が家では底に何も敷かない「ベアタンク」で飼育していますが、決して底砂が使えない訳ではありません。
誤食されにくかったり、汚れを吸着する効果のあるソイル系が個人的にはオススメの底砂です。
④水草について
ピパ・パルヴァは脚力が強いので植え始めのまだしっかり根付いてない状態の水草は抜けやすいかも知れません。
しかし、しっかりと根付かせれば水草とパルヴァの共演も夢ではありません。
■水草を栽培する場合は気を付けて!
先ほど水草との共演も夢ではないと言いましたが、そのためにはある程度の注意が必要です。
まず、カエル系は薬に弱いため、水草用の肥料や水草栽培に特化したタイプのソイルは控えた方が良いかも知れません。
⑤フィルターについて
定期的に水換えができればベアタンクでも飼育できますが、フィルターを使って水質を保ちたい場合はフィルターの種類よりも水流に気を付けるようにしましょう。
ピパ・パルヴァは確かに泳ぎが得意ではありますが、生息地自体は流れが緩やかか、ほとんどありません。
⑥隠れ家(シェルター)について
基本的に彼らは「自分は小石!」「私は砂!」みたいな感じで過ごしているため、隠れ家が無くても特に気にしません。
ですが、塩ビパイプや土管、小さめの植木鉢なども入れれば入ってくれる事もあるので水景に変化をつけたい時は活用してみてください。
⑦給餌について
ピパ・パルヴァは自然界では口に入るサイズの獲物なら何でも捕食し、ボウフラやアカムシのような水生生物や稚エビ、ミジンコのような極小の甲殻類、落下してきた小型昆虫、稚魚などを主に食べています。
その捕食方法は指先の感覚器官で餌を察知したら飛びかかり、両手で口に掻き込むようにして餌を食べます。
この食性からか、繁殖元のヨーロッパでも人工飼料ではなく活き餌や冷凍飼料で飼育しているようで、日本に輸入されてくる個体のほとんどは人工飼料に慣れていません。
そのため給餌の時は、冷凍アカムシや乾燥飼料のアカムシやイトミミズがオススメです。
我が家では「キョーリン」様から製造販売されている「乾燥赤虫」をメインに与えており、乾燥アカムシに慣れた個体には人工飼料である「バイブラバイツ」も少量混ぜて与えています。
給餌の間隔ですが、パルヴァ達は餌は与えれば与えるだけ食べてしまうため、繁殖狙いでなければ2〜3日に1回、夜間に与えます。量としては1匹あたり付属のスプーン約1杯くらいです。
冷凍飼料を与える場合はお腹が少しふっくらするくらいを目安に与えます。
⑧水換え、水槽掃除について
我が家ではフィルターも使わないベアタンクで飼育しているため、定期的に水換えをしています。
その間隔は水の汚れ具合や発情具合で換えており、基本的に5〜7日に1度水換えをし、繁殖を狙っている時だけ2〜3日に1度水換えをしています。
ここではベアタンクで飼育している場合の水換え方法をご紹介させていただきます。
まずはフタを外し、カップやクリーナーパイプで水を3/4くらい抜きます。
次にパルヴァを別のフタ付きプラケースに移動させます。この時かなり跳ねて暴れ、残った水が跳ねる事もあるので注意します。
最初の段階で水を抜き切らないのにも理由があり、最初に水を抜き切ってしまうとその段階で大暴れして捕獲が大変になってしまいます。
特にフラットタイプのプラケースで複数飼いしている場合は確実に翻弄され、脱走を余儀無くされてしまう事もあります。
一時退避用のプラケースは別に水を入れなくても良いですが、その分飼育ケースを素早く洗いましょう。
飼育ケースは流水にさらしながらスポンジで洗います。この時洗剤は使わないようにしてください。
パルヴァの飼育は意外と飼育ケースに汚れが付くため、角の部分もしっかりスポンジで汚れを落としていきます。
飼育ケースが洗い終わったら元の場所に設置し、バケツや大きめのプラケースに新しい飼育水を作ります。
この時も繁殖狙いでなければカルキ抜きは特に必要無く、21〜26℃くらいに水温を合わせるだけで良いです。
飼育ケースに先ほど作った新しい水を入れたら退避ケース内のパルヴァを戻していきます。
この時の注意点ですが、飼育ケースに戻った瞬間にそのまま底に行かず、勢い良く飛び出してしまう事があるので気を抜かないようにしましょう。
4,ピパ・パルヴァの繁殖について
とても珍しいカエルではありますが、ピパ・パルヴァも健康に飼育できれば繁殖させる事もできます。
①繁殖させる前にこれだけは必ず確認する事!
ピパ・パルヴァの繁殖形態は「産卵」であり、カエルの中では産卵数は比較的少なめですが、それでも50〜70個近く産卵します。
そこからオタマになってお世話し、死んでいった個体がいたとしても20〜30匹の子ガエルが誕生する事になります。
ピパ達の繁殖はとてもユニークで滅多に観察できるものではありませんが、繁殖させる場合は生まれてくる命についてもしっかり考える必要があります。
◆ちょっと特殊?筆者の場合
ピパ・パルヴァの繁殖に成功してしまった私ですが、元々繁殖させるつもりは無く、性別が分かった時点で別々に飼育するつもりでした。
この時は「ピパ・カルバルホ」というパルヴァより少し大きめの種類の繁殖成功が話題に上がっており、パルヴァはまだ繁殖されていない(CBの話がほとんど無い)状態だったのです。
そこでショップの店員さんに「パルヴァの国内繁殖は聞かないし、両生類は爬虫類と違って繁殖個体を販売できるのでやってみませんか?」と提案され、子ガエルの買い取りを条件に繁殖を始めた、というのが筆者のケースです。
☆もしかしたら「ご縁」があるかも?
先ほど子ガエルの買い取ってもらった話をしましたが、この子ガエル達はショップで販売されるため、もしかしたら皆様の目に触れる機会があるかも知れません。
他のカエルには無い独特な雰囲気、そして人工飼料に慣れさせていますので飼育はさらにしやすくなっているかと思います。
②繁殖を成功させるためにやる事とは?
パルヴァの繁殖は放っておけばできるような甘いものではありません。産卵準備期間と産卵後でもお世話が変わってくるため、状況に応じて対応し続ける必要があります。
産卵準備期間のポイント
- しっかり健康に飼育する事。
- 栄養たっぷりの餌を与える事。
または給餌の間隔を1〜2日に1度に変え、栄養をしっかり付ける事。 - 水換えの間隔を2〜3日に1度に変え、水温を下げる事(21〜23℃くらい)。
- メスの背中に変化が見られたら水換えを行い、飼育水には必ずカルキ抜きをする事。
- 飼育水は必ずカルキ抜きをし、ブラックウォーターを使う事。
産卵後のポイント
- メスを隔離する事。
できれば水量10L以上の飼育ケースが飼育管理しやすくてオススメ。 - 飼育水は必ずカルキ抜きをする事。
- 給餌は1〜2日に1度与える事。
- 水換えは3〜5日に1度行うが、メスを取り出す時は必ず水ごと取り出す事。
- 水温は25℃超えないようにする事。
- ブラックウォーターを使う事。
③ピパ・パルヴァの繁殖形態について
ピパ・パルヴァは産卵しますが、和名に「子守り」が付くように、メスは卵を背中に背負って誕生するその日まで「子守り」をするのです。
これがアフリカツメガエルなどのツメガエル系との決定的な違いです。
卵は薄い膜に包まれていますが、卵黄の部分が1.5mmもあり、パルヴァの体格からしたら大きめです。
メスは産卵が近付くにつれて、背中が小判状に褐色を帯びてきます。これがハッキリと分かる頃になると、次の水換えがスイッチとなって背中が一夜にして肥大します。
その見た目はスッポンの甲羅っぽくもありますが、私が見慣れてしまったせいか、キクラゲを背中に乗せているようにも見えます。
産卵は早朝に行われる事が多いですが、昼間に始める事もあります。
繁殖行動についてですが、背中がキクラゲみたいになったメスに最もやる気が高まっているオスが後ろからしがみつき、メスの腹部を強く締め付けます。
メスの総排泄孔も卵が背中に転がりやすいように背中に向けて開くため産卵間近なのが分かりやすいです。
そしてオスとメスは息を合わせて水中で一回転、逆さになった瞬間に産卵、受精をさせます。
受精卵はメスの背中にしがみついているオスが脚や首、お腹を使って集めながらメスの背中に埋め込んでいきます。これを何度も繰り返します。
産卵後は卵が背中のタプタプの皮に徐々に収まっていきます。卵がオタマジャクシになってメスの背中から誕生するまで約20〜25日程かかりますが、この間のメスは神経質になっています。
メスの背中は徐々に厚みと丸みを帯びていき、オタマの誕生が間近になるとプックリとしてきます。
■ピパ系がマイナーというかファンが少ない理由
ピパ達は確かにユニークで独特の魅力があるのですが、一般受けはあまりしない種類だったりします。
その最大の理由が繁殖方法にあり、ピパ・ピパに至っては「世界一気持ち悪いカエル」なんて言われる事もあります。
ピパ・ピパの場合は卵の数も多く、その分背中に穿たれる穴も多く、背中の盛り上がりも桁違いです。
しかも子ガエルが誕生する時のシーンや穴だらけの背中は「集合体恐怖症」の方に尋常じゃないダメージを与え、見る者のSAN値を削りにかかります。これがピパ系がマイナーな理由です。
ピパ・パルヴァの場合は小型なので、最初の卵の埋め込みが済んでしまえば背中の穴もほとんど目立たず、オタマ誕生後もピパ・ピパのようなSAN値削りがありません。
また、パルヴァはオタマを背中から誕生させる特徴があります。これはカルバルホも同じです。
④ピパ・パルヴァの雌雄判別について
ピパ・パルヴァの雌雄判別は慣れないとなかなか見分けがつきませんが、ピパ・ピパよりは雌雄の差があるのでまだ良心的です。
♠️オスの特徴について
- メスより小柄。
- 繁殖可能になると鳴く。
- お腹の模様が透明と白の迷彩柄。
- 前腕が若干メスより太め。(ただし大きさに差がありすぎると分かりにくい)
- 他の個体にしがみつこうとする。
♥️メスの特徴について
- オスより体が大きく、横幅もある。
- お腹に模様が無く、白一色。(オスはお腹側や股関節あたりが一部透明。)
- 成熟しているメスであればお腹から黄色い卵巣が透けて見える。
- 鳴かない。
☆オスの鳴き声も独特
成熟速度はオスの方がメスより早く、繁殖可能になったオスは体内を振動させて「ジージー」「ギーギー」「ギッコギッコ」と独特の鳴き声を発します。
最初聴くと聞き慣れない鳴き声なのでビックリしますが、今や私の感覚的には「アサリの貝殻のザラザラしている部分を擦り合わせたような音」といった感じです。
⑤繁殖時に怖い事とは
繁殖を成功させるためのポイントで触れましたが、ピパ・パルヴァの繁殖は一筋縄で成功するものではなく、守るべきポイントが守られていないと簡単に失敗してしまいます。
繁殖失敗のパターン
- カルキ抜きをしなかった事で卵やオタマが塩素に負けて生存率、孵化率が下がる。
- 水温が温かい状態が続くとオタマの奇形率が上がったりする他、最悪卵が死んでしまう。
(一説にはピパ系は水温が低い時に子育てをするとされる。) - 餌が十分じゃないと誕生するオタマの数が減る。
(パルヴァの卵は人工孵化ができないため、メスの背中で酸素供給などが行われている可能性があり、メスの栄養が不足してしまうと背中から卵を吸収する可能性がある。) - ブラックウォーターは子守り中のメスのストレス軽減の他、細菌の増殖を抑えたりする。繁殖促進の効果もあるのに使わなかった。
(使用の有無で生存率、孵化率が違う。使った方がオタマの誕生数も多い)
■筆者の失敗談〜子喰いのボ卿、度しがたい事実〜
我が家には3匹のオスと2匹のメスがいます。最初に繁殖に成功したメスの名前は「オーゼン」といい、54匹ものオタマのお母さんです。
もう1匹のメスの名前は「ボンドルド」。度しがたい子供好きなキャラクターから取って名付けました。
ボンドルド(以後、ボ卿)はオーゼンよりも多くの卵の子守りをしており、ブラックウォーターを使ってもなお背中の子供達を守ろうとして「おやおやおや…」と私にガンを飛ばしたり、餌を与えても私がベッドに入るまで口にしないなど徹底していました。
そんな日々を過ごしながらオタマ誕生予定日を迎えたのですが、何と私が夜勤になってしまい、ボ卿に給餌もできずオタマ回収の用意もできない状態になってしまったのです。
恐る恐る帰宅すると、そこには空腹から我が子を捕食するボ卿の姿がありました。
◆しかし奇跡は起きた!
失意の掃除が終わり、飼育ケースを眺めているとボ卿の背中から1匹オタマが誕生しました。
そのオタマを食べようとはしなかったので隔離し、大切に育てあげました。まるで希望を一身に詰め込んだようなこの子は「プルシュカ」と名付け、ボ卿の一人っ子として我が家で暮らしています。
⑥オタマ誕生までの期間は?
パルヴァは小型種だからか、他のピパ達よりオタマ誕生までの期間が短めです。
22〜24℃くらいで飼育管理をしていると、大体20〜24日ほどでオタマが誕生します。
誕生する時間帯はかなりまちまちで、昼間や夕方に一気に誕生したり、1度何匹か誕生してから2〜3日おいて再び誕生するパターンもあります。
⑦オタマの見た目や餌について
ピパ・パルヴァは産卵しても孵化に辿り着かなかったり、オタマが上手く育たないという事がよくあるそうです。
そんな貴重なパルヴァのオタマの姿ですが、この写真をご覧ください。
こちらは誕生から12日目の姿ですが、扁平な頭に伸びた尻尾はまるでナマズの稚魚のような姿をしています。大きさは2cmほどです。
生まれたばかりのオタマはより小さく、もっと明るい体色をしているため、ゴールデンタイプのグッピーの稚魚のようです。
この「魚に近い姿」こそ、ピパ系が古代ないし原始的な特徴を色濃く持った両生類と言われる理由なのです。
ピパの仲間は生物学、考古学上は両生類が陸上生活に移る最中の特徴を持つカエルとされています。
完全水生というだけでも特徴的ですが、生まれるオタマも魚類に近い特徴を持っており、他のカエルのオタマと違って頭部の左右にエラがあります。
一般的なカエルのオタマは片方にしかエラ孔がありません。
また、ピパ系のオタマは他のカエルのオタマのように物を噛める口や歯が無いため、パクパクと口を開いて水中の微細な有機物を食べる「濾過摂食」という方法を取る事も大きな特徴です。
この特徴はかなり珍しいため、一般的なオタマを飼育する感覚で餌を与えると食べる事ができず、死んでしまいます。
パルヴァはピパの仲間の中では最も小さいので、生まれてくるオタマもとても小さいです。そのため給餌には微細な餌を用意する必要があります。
☆濾過摂食の強い味方!「メダカベビー ハイパー育成」!
パルヴァのオタマ達は本当に微細な餌しか食べる事ができず、しかも栄養が足りていないと成長の遅れがかなり顕著になってしまいます。
そんなユニークオタマの飼育に助かるのが「キョーリン」様から販売されているメダカの稚魚育成用パウダーフード「メダカベビー ハイパー育成」です。
普通の稚魚育成用パウダーフードより栄養価が高く、水面に広がってからゆっくり沈むため、パルヴァのオタマも食べやすい商品です。
また、栄養価の高い餌はオタマの成長を早める事ができるため、一番心配な時期をハイスピードで過ごす事ができます。
⑧オタマが誕生したら〜お世話と成長〜
産卵から約20〜24日経つと、メス親の膨らんだ背中からオタマがポコポコと飛び出すように生まれてきます。
時々尻尾から出てしまう、人間でいう「逆子」状態になってしまうオタマもいますが、メス親の背中の中にスペースができるとそこで1度体勢を直して頭から出てきますので間違っても無理矢理スポイトなどで引っ張らないようにしましょう。
・オタマ誕生初日
オタマが誕生したら飼育ケースからメス親だけを隔離し、その飼育ケースでオタマを育てます。
オタマの数が少ない場合は小さめのプラケースにオタマを移して飼育する事もできます。
生まれたばかりのオタマは1〜1.5cmほどの大きさしかありませんが泳ぎがとても上手く、生まれた時から餌を食べるためオタマ用の餌を与えましょう。
餌は1〜2日に1度、全オタマに行き渡る量を与えます。
・オタマ誕生2〜3日目
初日でも水換えはできなくはないですが、オタマへの負担を避けるために初日ではなく数日空けてから水換えをします。
プラケースの場合は底に溜まったフンや食べ残しをクリーナースポイトで吸い出し、全体の水量の1/2の量の水換えを行います。
新しい水は必ずカルキ抜きをしてください。
・オタマ誕生7日目
満遍なく餌を食べれていれば、特に成長に差がなく育ってくれます。この頃になると2cm近い大きさになり、体色も頭部がやや黒っぽくなります。
餌は変わりませんが、フンの量も増えてくるためクリーナースポイトでこまめに取り除きます。
・オタマ誕生12〜14日目
オタマのお腹後方、総排泄孔と尾部の間くらいにかなり見づらいですが、白っぽい物が確認できるようになります。これは「後ろ脚」になる部分です。
大きさは約2cmほどになり、遊泳力もさらに強くなります。
餌は変わらずパウダーフードですが、餌の需要量が増えるため餌を回数を1日2回にしても良いです。
・オタマ誕生20〜25日目
ここまでくるとオタマもかなり大きくなり、2.5〜3cmほどに育ちます。体内の後ろ脚も大分大きくなって、成長が早い個体の後ろ脚は足の指が確認できたりします。体色も体全体がやや黒っぽくなります。
遊泳力はかなり強くなり、中にはプラケースから飛び出してしまう個体もいるためフタは必ずするようにしましょう。
・オタマ誕生30日目
成長が早い個体であれば4cm近い大きさになり、後ろ脚も生えてきます。
泳ぎ方も魚のような泳ぎ方をしつつ、時折後ろ脚をピコピコと動かしてカエルっぽさが出てきます。
また、エラのすぐ後ろに白っぽい棒状の物が見受けられるようになりますがこれは「前脚」になります。
・オタマ誕生35〜45日目
順調に育っていれば、前脚が生えてきます。この前脚が生えるタイミングは個体によってまちまちなので、なかなか映えてこないとヒヤッとします。
見た目はナマズの仲間の「カイヤン」や「シャベルノーズ」のような平たい頭部に小さな前脚、ちょっと伸びた胴体、よく動かせるようになった後ろ脚、長いヒレ付きの尻尾という新手のサンショウウオのような見た目になります。
・オタマ誕生50〜60日目
前脚、後ろ脚が生えたオタマは徐々に尻尾が短くなっていきます。
この時真っ直ぐ尻尾が吸収される事もありますが、体内で起きているアポトーシスによって尻尾が歪んでしまう事があります。心配になりますが、オタマの腰にあたる部分が曲がらなければ特に気にする事はありません。
この頃は尻尾が吸収されていく以外に、オタマには更なる変化が起きます。
カエルへの変態が始まっているのは違いありませんが、オタマの鼻先が尖り、左右にあった眼の距離が少し近くなります。
この変化が見られたら給餌と水換えを止めます。見た目だけでなく体内の構造も変わっている最中ですので、この時に餌を与えてもほとんど食べず、むしろ残った餌が水質を悪化させてしまう可能性すらあります。
オタマの鼻先の尖りを確認してから4〜5日後には短い尻尾を付けた子ガエルになります。
⑨子ガエルのお世話の方法と人工飼料への慣らし方について
約1ヶ月半〜2ヶ月ほどで変態した子ガエルですが、飼育方法は親ガエルと同じでとても簡単です。
大きさは体長2cmほどですが、後ろ脚を伸ばせば4cm近くなります。カエルにはなりましたが、顔立ちはまだまだ幼さが残っています。
飼育方法は親ガエルと同じではありますが、まだ小さいため親ガエルの飼育環境と同じような水位ではなく、5〜8cm程度の深さにします。
また、カエルになった事でパウダーフードが食べづらくなっているので餌を変えます。
人工飼料への慣れさせ方ですが、かなりスムーズに移行する事ができます。
手順として、まずはほんの少量パウダーフードを子ガエルに与えます。子ガエルはパウダーフードの匂いに反応してすぐに食べに来ます。この時に細かく砕いた熱帯魚用フレークフードを与えます。
我が家では「ジェックス」様が製造販売している「ワイルドフレーク プロバイオ ミニ」を与えています。
元々フレークが細かいタイプであれば子ガエルに給餌しやすいので、お気に入りの一品があればそちらに慣らせる事も可能です。
水面に広がるパウダーフードとフレークフードを一緒に食べた子ガエルは最初こそ戸惑いはするものの、しっかり餌を飲み込んでくれます。
これを給餌の度に繰り返すのですが、パウダーフードの量を少なくしてフレークフードの比率を増やしていく事を忘れてはいけません。
こうする事で子ガエルを人工飼料に慣れさせる事ができます。
☆あどけなさたっぷり!子ガエルのご飯タイム!
親ガエルの食事風景も勢いがあって好きですが、黒豆サイズの子ガエルの食事風景は可愛さがあります。
フレークフードに気付いて小さな体と脚を使って飛びかかり、小さな手で一生懸命に掻き込むのです。
その時にまだ前脚の使い方が甘くて餌を落としてしまったり、顔に餌をくっつけてしまい、前脚で顔の周辺をグリグリとグルーミングしている事もしばしばあるのですが、この仕草は親ガエルではなかなか見られず、子ガエル特有の仕草だと思います。
⑩ピパ・パルヴァの繁殖をしている時に筆者が思った事
こうして珍しいカエルの繁殖に成功したワケですが、繁殖をさせている時にふと思った事があります。
オスの方が成熟が早いのは分かりましたが、メスが産卵するスイッチはオスからのラブコールだけでなく、熱烈なホールドも重要な要素なのではないかと思ったのです。
ピパの仲間は雨季などの水温が低い時に繁殖をするらしいのですが、パルヴァを飼育、観察している中でオスの「ホールド」という直接的な刺激がメスに異性や繁殖意欲を与えているような気がします。
実際我が家ではオスにたくさんホールドされたメスの方が早く産卵に至りましたし、ホールドされたメスの卵巣はホールドされていないメスより早く産卵準備が整っていました。
5,ピパ・パルヴァの飼育、繁殖に役立つアイテムについて
①特にこだわりは無いけど「ブラックウォーター」
ブラックウォーターはピートやマジックリーフを水に浸けたり煮出したりして作る事ができますが、そんな時間が無いという方には市販のブラックウォーターのリキッドがオススメです。
一口にブラックウォーターと言っても様々な商品があり、容量や値段、強化成分に違いがあります。
我が家では「トリプルブラックウォーター」という商品を産卵促進やストレス緩和以外に病原菌抑制ために使っています。
②結構汎用性が高い!「プラスチックカップ」
ペットショップでよくクワガタやカブトムシの成虫や幼虫が入れられているプラスチックのカップがありますが、大きめの物はパルヴァの飼育でも使う事ができます。
カップのフタ部分にいくつかの穴を空けて水を入れるだけで子ガエルの飼育容器にできたり、生まれたオタマが少ない場合の飼育容器として使う事もできます。
③移動時にあると便利!「水ゴケ」
コケリウムや爬虫類飼育などにも使われる水ゴケはパルヴァの移動にも使えるアイテムです。生きた水ゴケである必要は無く、入手しやすい乾燥水ゴケが扱いやすいです。
乾燥水ゴケを水に浸してプラケースやプラスチックに敷くと、パルヴァを隔離した時に水分を保持してくれます。その状態で飼育はできませんが、水を満たしたプラケースより軽くて運びやすく、水を溢す事も少ないので一時的な隔離や移動にオススメのアイテムです。
まとめ
今回は珍しいカエルの仲間、ピパ・パルヴァの飼育方法や繁殖方法などについて皆様にご紹介させていただきました。
パルヴァはピパ(コモリガエル)の仲間の中で最小の種類で、見た目もピパ・ピパほど真っ平らではなく、厚みがあるため幾分か受け入れられやすいかと思います。
また、珍しい種類ではありますが、飼育自体はとても簡単でバジェットガエルやツリーフロッグほど神経質にならなくても良く、擬態が得意な底生熱帯魚を飼育するような感覚に近いものがあります。
繁殖成功には少々コツがいりますが、その独特な繁殖方法は生命の神秘や種の不思議さを感じさせてくれます。
卵を背中に乗せた状態は人によってはNGかも知れませんが、背中に埋ってしまえばピパ・ピパほどのグロテスクさも無いためかなり良心的だと思います。