はじめに
某ウイルスの影響から混雑を避けて大自然の中に新たな趣味を見出だす方も多かったのではないでしょうか?
その中でも、ルールを守って行えばスポーツとしても食料調達としても楽しめる「魚釣り」に覚醒した方もいらっしゃるようです。
そんな新たなる趣味を脅かす存在の1つが「危険生物」。今回はとぼけた表情につい騙されてしまう海産ナマズ「ゴンズイ」について皆様にご紹介させていただきます。
1,ゴンズイってどんな魚?
ゴンズイは海に生息するナマズの仲間で、大きさは10〜30cm前後です。
見た目は一見ナマズとは思えないような姿をしており、どことなくオタマジャクシを細長くしたような形をしています。
頭部には8本のヒゲが生えており、ナマズらしくこのヒゲをセンサーとして使う事で海底の砂泥から餌を探しだして捕食します。
体色は腹側は白〜乳白色、背中側は黒褐色〜茶褐色をしており、頭部から尾の先まで白〜黄色のラインが2本走っていますが、この体色は幼魚の時は顕著であるのに対し、成魚になると少々地味になります。また、各ヒレには色がなく透明です。
幼魚の時は集団で行動し、大きな団子状の群れを作る性質があり、これは「ゴンズイ玉」と呼ばれています。
そんな幼魚が成長し、成魚になると群れから離れ、単独で生活するようになります。
性質はナマズの仲間らしく夜行性で、暗くなると堤防の周辺や磯を泳いで餌を探します。
主に小エビやゴカイ、小さなカニ、他種の稚魚等を捕食しており、好物の匂いに引き寄せられて夜釣りで釣れる魚でもあります。
☆身に危険が迫ると…
淡水魚の「ギギ」や「ギバチ」等のナマズの仲間の一部は身に危険が迫ると棘条や骨を使って「ギーギー」と鳴く事がありますが、実はゴンズイも同じ事をします。
2,生息場所は?
日本では本州中部以南に分布しており、主に浅い海や岩礁、防波堤等の近くに生息しています。
基本的には底の方にいたり岩礁に隠れていますが暗くなると回遊を始めます。
3,ゴンズイが危険生物である理由とは?
その見た目と表情からはどう見てもゆるキャラ枠の魚ですが、実はゴンズイ、幼魚であっても成魚であってもその背ビレと胸ビレの「第一棘条」が丈夫で鋭い「毒棘」となっているのです。
この毒は非常に強力であり、刺されると患部が赤く大きく腫れ上がって、酷い激痛に見舞われる事になります。また、時間経過によってはしびれ等の症状の他、呼吸困難や嘔吐、患部が壊死してしまう事もあります。
さらに、ゴンズイはウロコを持たず、滑らかな体表をヌルヌルの粘膜が覆っているのですが、何とこちらにも毒棘同様の毒が含まれています。
僅かな傷口から毒が入る可能性があるため、ゴンズイを素手で触らないように注意が必要です。
◆「死んでるなら関係無い」…なんて事は無い!
たまに「毒魚は死ねば毒が無くなる」と考える方がいますが、ゴンズイの毒はそんな考えを容易く一蹴してしまいます。
何故ならゴンズイの毒は、ゴンズイが死んでも残り続ける性質があるからです。
そのため波打ち際に打ち上げられたり釣り上げられたまま防波堤に捨てられたゴンズイの死体を見てもイタズラするのは禁物です。
◆「靴履いてるから大丈夫」…な訳が無い!
これも意外と勘違いされやすく、靴を履いていれば踏みつけても大丈夫と思っている方もいます。
実はゴンズイの毒棘、長靴の底も簡単に貫通する程の強度を誇っているのです。
4,もしゴンズイに刺されてしまったら!?→処置法
ゴンズイは釣りの世界では「外道」と呼ばれてしまう程かかりやすい魚であり、しかも毒棘持ちという厄介な一面があります。
そんなゴンズイを釣り上げ針を外そうとした時や、お子さん達が好奇心のまま触れてしまってゴンズイの毒棘に刺されてしまうという事があるのです。
ゴンズイに刺されてしまった場合は、まずは流水で傷口を洗ってから、刺された患部に43〜50℃の火傷しない程度のお湯をかけたり、お湯を張ったバケツ等に患部を浸します。
これはゴンズイの毒がタンパク質によって構成されているため熱に非常に弱い性質を逆手にとった方法です。
しかし、毒を完全に不活性化するためには温度が足りず、痛みを和らげるくらいに止まるので、最悪の事態を避けるためにも救急車を呼んだり周囲に人がいたら助けを求めましょう。
ちなみにゴンズイの毒を無力化させるためには60℃以上の温度が必要であり、この温度だと火傷をしてしまうため絶対に熱すぎるお湯は使わないようにしてください。
5,もしゴンズイがかかったらどうすれば良い?
時と場合によっては「まさに外道」と言いたくなる程釣れてしまうゴンズイ。
しかも毒棘を見せてこちらを威嚇するわ暴れるわで本当に外道の限りを尽くしてくれます。
そんなゴンズイにかかった針を外す時は、「魚バサミ」がオススメです。魚バサミにはギザギザとした刃が付いており、これのおかげでゴンズイのヌルヌルした体もガッチリ押さえ込む事ができます。
ゴンズイの動きを封じたら、「プライヤー」を使って針を外します。この時ゴンズイとの距離がかなり近くなるので注意してください。
針が外れたゴンズイを海に帰すか、持ち帰るかは皆様次第です。
◆チタン入りのグローブすらも…
「チタン入りのグローブなら魚の攻撃も怖くない」と過信する方がいるそうですが、ゴンズイの毒棘はこのチタン入りグローブすら貫通します。
信じられないかも知れませんが、分厚くて丈夫な長靴の底を易々と貫通する強度の毒棘が防刃機能無しで保温性向上のためのチタングローブを貫通するのはもっと容易い事です。
多少の事から手を保護する事はできますが、ゴンズイの毒棘からの刺突は防げないので強度に過信しないように注意が必要です。
危険生物・ゴンズイの意外な一面とは?
①実は美味しい魚!
「外道」と呼ばれ嫌われているゴンズイですが、一部地域では食用として親しまれており、美味しい魚として知られています。
その気になるお味は「ウナギに似ている」との事で、天ぷらや唐揚げ、味噌汁や蒲焼き等で食べられているそうです。
②集団行動の秘訣は「フェロモン」!?
先程幼魚の時は「ゴンズイ玉」という大きな団子状の群れを作る事に触れましたが、何とこの群れの行動はフェロモンで制御されていたのです。
その名も「ホスファチジルコリン」という今見ても明日には絶対忘れてしまいそうな名前のフェロモンが大きく関係しており、群れの識別や動き、向き等のコミュニケーションを取る時にも使われているのだとか。
これにより非常に高いシンクロ率を誇るゴンズイは、餌を食べる時もカーペット掃除に使う「コロコロ」の要領で海底の餌を食べます。
③ゴンズイの名前は不思議がいっぱい
ゴンズイは漢字で書くと「権瑞」と書き、「権」には「副、(仮に任命した)官位」、「瑞」には「めでたい」という意味があります。
また、学名「Plotosus japonicus」、英名「Japanese eel catfish」のどちらにも「日本」を意味する単語が入っており、親しみ深い名前になっています。
英名の方は直訳すると「日本のウナギ(みたいな)ナマズ」となり、ナマズらしからぬ風変わりな見た目を指しています。
他にも地方名に「ググ」「ギギ」「ハゲギギ」と呼ばれており、釣り上げられる等して身に危険を感じると「ギーギー」と鳴く性質を差したものもあります。
④毒持ちだけど肩身が狭い?ゴンズイの天敵達とは…!
靴底を貫通する毒棘と毒の粘膜によって身を守るゴンズイですが、自然界では割と狙われる側のようです。
特にアオリイカやマダコ、エビの大型種の一部はゴンズイの毒が通用せず、一方的に捕食されてしまいます。
アオリイカは以前「ヒョウモンダコ」の紹介の時にも天敵として取り上げましたが、かなり優秀な捕食者である事が分かります。
また、「コショウダイ」というタイの仲間も毒に耐性があり、ゴンズイを積極的に捕食します。余談ですが、コショウダイはとても美味しい魚として知られています。
特にゴンズイ玉を作る幼魚達は比較的毒棘の強度や毒が弱いため、これらの捕食者達に狙われています。
まとめ
今回は危険なゆるキャラ「ゴンズイ」についてご紹介させていただきました。
ゴンズイは名前や刺す事については割と知名度がある魚なのですが、刺された時の症状や毒棘の威力等が看過できない部分があるので、せっかく釣りに目覚めた方や自然に興味が出た方が予備知識としてこの記事に目を通していただけたらと思います。
また、ゴンズイは狙っていないのに釣れてしまう「外道」の一種なので、魚バサミやプライヤーを事前に用意しておく事で刺される危険性をしっかり抑えるのも大切です。
自然には生き延びるために私達の予想もつかない力を手にした生き物がたくさんいます。