はじめに
最近は某動画サイトにて「危険過ぎるタコ」として注目が集まっているヒョウモンダコ。
猛毒を持ちながら小さな体とキレイな模様からペットとして飼育している方もいます。
飼育する分には自己責任なので良いとして、
海水浴場やスキューバダイビング等ではあまり看過できない「小さな暗殺者」です。
ここではそんなヒョウモンダコの特徴や性質等についてご紹介していきます。
1.危険生物・ヒョウモンダコとは一体何者!?
農林水産課から、ヒョウモンダコの目撃についてお知らせします。
5月8日(金)に、霊南地先の竜宮島において、ヒョウモンダコが確認されています。
ヒョウモンダコは、猛毒があり、大変危険です。絶対に、触れたり、食べたりしないでください。 pic.twitter.com/uZcbiiszfl
— 島原市 (@cityshimabara) May 9, 2020
ヒョウモンダコはマダコ科のヒョウモンダコ属に含まれているタコです。
ヒョウモンダコには4種類がおり、日本にも生息していますが、
主にヒョウモンダコの仲間の中でも学名:Hapalochlaena fasciataの事を指しています。
普段はやや赤みがかった褐色に焦げ茶色の縞模様という目立たない体色をしているので、見つけたとしてもヒョウモンダコとは思えません。
全長は約10cm程の大きさしかない小型種であり、
タコらしく体色や表皮を変化させる事で海中の岩や海藻に「擬態」をしています。
しかし、驚かされたり身の危険を感じたりすると名前の通り体色を変化させ、明るいベージュ色に茶色の斑と青く光る環状模様を浮き上がらせて威嚇します。
ヒョウモンダコの武器は小さくて鋭い口に隠された唾液腺に含まれている猛毒「テトロドトキシン」です。この猛毒はフグ毒としても有名であり、その威力たるや獲物どころか人間すら容易に死に至らしめてしまいます。
また、この猛毒が体表や筋肉にも含まれていると言われているため触れる事はもちろん、食用にすることすら危険なタコなのです。
2.ヒョウモンダコの生息場所は?
基本的に暖かい海に生息しており、日本では小笠原諸島や南西諸島、沖縄県等のサンゴ礁や砂礫、浅い海の岩礁に好んで生息しています。
だからと言って、
と思ってはいけません。
地球温暖化による海水温度の上昇により、ヒョウモンダコの生息分布域は徐々に北上しているのです。かつては大阪府でも捕獲され、2009年には福岡県や長崎県等の九州地方でも目撃されています。
つまり、安全だと思っていた海に潜んでいる可能性が高くなっているのです。
3.ヒョウモンダコが危険と言われる理由は?
先程少しだけ紹介しましたが、ヒョウモンダコにはフグ毒と同じ強力な神経毒である「テトロドトキシン」があるからです。この猛毒はヒョウモンダコの筋肉や体表にも含まれていると言われています。
また、人間に効果があるかは不明ですが、「ハパロトキシン」という毒も持っています。こちらはテトロドトキシンが効かないエビやカニ等の甲殻類を仕留めるために使われており、海中に放出する事でそれを吸った獲物の体を麻痺させます。
ヒョウモンダコは普段、テトロドトキシンを小魚等の捕獲や防御、外敵への攻撃ために使っています。防御の際にはテトロドトキシン入りの唾液を吐いたり、咬みついて攻撃した際に口から注入する事で相手を中毒死させます。
この攻撃は人間に対しても行われ、もちろん効果は抜群です。
咬まれると麻痺症状の他、歩行困難や呼吸困難等の症状が現れ、最悪な場合はそのまま意識不明になり死に至ります。時にはこれらの症状が出ないものの、難治性皮膚潰瘍になってしまう事もあります。
ここまで読んで
と思った方は、
余程野生動物を探し出せる「観察眼」やかくれんぼの鬼役に自信があるのでしょう。
しかし、「擬態」をしている野生動物を探し出すのは非常に難しく、
もちろんヒョウモンダコにもそれは当てはまります。
ヒョウモンダコに咬まれた人は何故咬まれてしまったのか?イタズラをしたというのもあるとは思いますが、基本的に擬態していたヒョウモンダコに「気付かなかった」ことが挙げられます。
表皮や体色すら周りの環境に合わせて素早く変化させる事ができるヒョウモンダコに気付かなかったため、岩や海藻に触れた時に擬態中のヒョウモンダコを刺激してしまい、カウンターとして咬まれてしまったのです。
いるのに「見えない」、そして強力な毒をもって相手を征する生態こそ、ヒョウモンダコが危険生物として恐れられている所以なのです。
4.ヒョウモンダコに咬まれてしまったら!
磯遊びに夢中になっていたり、ダイビング中にヒョウモンダコを刺激してしまい、咬まれてしまった場合はすぐに傷口を流水に当てながら毒を絞り出しましょう。
もちろん救急車の手配もします。
近くに人がいる場合は救急車の手配をお願いし、毒を絞り出すのに専念します。
ここで絶対にやってはいけないのが「毒を口で吸い出すこと」です。
アカエイの時にも説明しましたが、口の中に傷があったりすると吸い出した毒がそこから入ってしまったり、口の中の細菌が咬まれた傷から入ってしまう事もあります。
さらに言うのであれば、テトロドトキシンはアカエイの毒より非常に強力であり、吸い出した毒を誤って飲んでしまった場合はさらに危険な状態に陥ってしまう可能性が高いです。
口で吸い出す方法はマンガやアニメ等のシーンで有名かも知れませんが、そこは現実を見て傷口に流水を当てながら毒を絞り出してください。
5.ヒョウモンダコの被害について
日本ではまだヒョウモンダコによる死亡事故はありませんが、海外では死亡事故があります。有名なのはオーストラリアで、ヒョウモンダコに咬まれた事による死亡事故があります。
また、ヒョウモンダコ1匹で26人もの人間を殺すことができるとも言われており、オーストラリアでは観光客が分からなかったとはいえ、ヒョウモンダコを手に乗せていた事が物議を醸しました。
また、筋肉や体表にも猛毒が含まれていることが研究によって発覚したヒョウモンダコは、
タイの屋台で串焼きになって販売されていたこともありました。
テトロドトキシンは高い耐熱性があり、何と200℃の熱にも耐えるため、熱による中和はできないのです。これには専門家も注意換気を出しています。
6.もし、ヒョウモンダコを見つけてしまったor釣り上げてしまったら?
今後、ダイビングや魚釣り等の最中にヒョウモンダコに遭遇してしまうシチュエーションが増えてしまうと思われますので、その対処方法をご紹介したいと思います。
まず、磯遊びやダイビング中に見慣れないタコを発見した場合は絶対に近付いたりイタズラしないようにしましょう。
これは他の生き物でも言えることですが、
毒の有無、気性の荒らさも含めてよく分からない生き物を見つけた場合は近付かないべきです。
また、磯遊びやダイビングに行く前に安全な生き物についてを予習しておくと、見慣れない生き物に遭遇した時に「触れない」「近付かない」という行動を取りやすくなります。
次に、岩や海藻に触れる前にその場所をしっかりと観察しましょう。
よく見たら小さいけど目が見えたり、何となく体の形が見えてきたり、呼吸のために体が動いたりします。そういった岩や海藻にない「違和感」を感じたら触れないようにすれば、ヒョウモンダコやそれ他の擬態生物を刺激せずに済みます。
釣り上げてしまった場合は、海水を入れたバケツか海の中に入れて上下に上げ下げしているとヒョウモンダコの方から仕掛けを離してくれます。
海で仕掛けを離してくれた場合はそのまま見送り、バケツの中にいる場合は海水と共に海に帰してあげます。張り付いていた場合は決して素手では触らず、トングで掴んだり撒き餌用の柄杓等でちょっとだけ刺激を与えて移動を促し海に帰します。
なかなかしつこい場合は陸に揚げておくと苦しさから仕掛けを離してくれます。そのまま海に向かって行けば良いですが、ずっとその場で留まっている場合はトング等で挟んで海に帰します。
仕掛けも離さない上、ずっと留まってしまっている場合は最悪〆てしまいます。
マイナスドライバーや包丁等で目と目の間を貫くと〆る事ができます。
〆たヒョウモンダコは陸に捨てずに海に帰します。
高い擬態能力と猛毒の一撃が恐れられるヒョウモンダコですが、やはり「危険生物」以外の一面も持ち合わせています。そんな一面についても紹介させていただきます。
ヒョウモンダコの危険以外の一面について
・実はタコの仲間の中では貧弱
強力な毒を持つヒョウモンダコですが、
その毒に頼った狩りや身の守り方をしているため他のタコと比べて体が貧弱な面があります。
タコが身を守ったり逃走のための煙幕として使う「墨」が入っている器官「墨汁嚢」が退化している上、泳ぎも苦手で他のタコはおろか、同じくらいの大きさのタコにも負けてしまいます。
さらにヒョウモンダコは毒で弱った、あるいは絶命した獲物を食べるため、他のタコのように吸盤は強力ではありません。むしろヒョウモンダコの吸盤は小さくて貧弱であり、腕の筋力もかなり弱いです。
・とっても子煩悩!
タコの仲間はイカと比べて非常に子煩悩ですが、ヒョウモンダコも子煩悩を発揮します。
交尾が終わったメスは、秋の終わり頃になると数十個の卵を産卵します。
卵は透き通った乳白色をしており、ちょっと細長くなった米のようです。
産卵が終わるとメス親は卵を抱えてお世話をします。
産卵から孵化までかかる期間は約半年と言われていますが、その間メス親は餌を食べる事は一切せず、全ての時間を卵のお世話に費やすのです。
そして半年後、体力を使いきったメス親は卵から次々と孵化する我が子を見送って命の幕を閉じます。
メスとの交尾後に死んでいるからと考えられます。
・猛毒使いにも天敵がいた!その「意外な相手」とは?
人間をも殺し、身体中に毒を持つヒョウモンダコ。
一見無敵の生物のようですが、そこはやはり自然界です。上手いことできています。
そんなヒョウモンダコの天敵は何と「コウイカ」なんです。
人間に刺身や天ぷら、お寿司で親しまれているあのイカがまさかの天敵なのです。
研究によると、コウイカにはヒョウモンダコの毒は効果が無いため、墨も吐けず、運動下手で体の小さなヒョウモンダコはコウイカにとっては格好の獲物なのだそうです。コウイカは泳ぎも得意で体も大きいため、触腕を伸ばして一瞬で捕食します。
しかし、生息域が北上し、数も増えているヒョウモンダコに対してコウイカは数が減ってきていると言われています。その理由は、産卵場所となる海藻の茂みが減ってしまった事が原因とされています。こうなるとコウイカは上手く繁殖できないのに漁獲されたり捕食されたりで数を減らす一方です。
そのため、コウイカの産卵場所を守り、増やしてあげる事でヒョウモンダコの増加とコウイカの減少の抑止に繋がるのではないかと思います。
・怖いけど可愛らしいから…
ヒョウモンダコは10cm程度の大きさしかなく、
模様も美しい事から一部のアクアリストから人気があります。
某動画サイトでもヒョウモンダコの飼育動画をあげている方もおり、
普段の様子や餌を食べる瞬間であったり危険性を解説していたりもします。
ヒョウモンダコは咬まれれば非常に危険な生物です。
飼育には細心の注意が必要であり、飼育している方々はしっかりと心得て飼育していますので、動画に触発されてお遊び半分で飼育するのは考え物です。
もし、ヒョウモンダコを安全に見てみたいという方は水族館に行きましょう。
まとめ
ヒョウモンダコはテレビ番組でもたまに紹介されており、危険性だけでなく警告色の美しさも解説されています。
確かに警告色は神秘的で美しいですが、これは彼らからのメッセージであり、海で見つけた時にこの色を発色されたら大人しく彼らのメッセージを受け止めてあげてください。それが双方傷付かなくて済む方法です。
もっと言うなら、自然界に暮らしている生物からこんなにも分かりやすくアプローチしてくれるのは非常にありがたい事です。いきなり襲いかかる事の方が多い世界でのヒョウモンダコの警告色は彼らなりの優しさでもあるのです。
地球温暖化からの海水温度の上昇によって目撃例や捕獲例が増えてきたヒョウモンダコですが、今後はもっと広い範囲で見られる可能性があります。それに備えて私達人間もヒョウモンダコの生態や対処方法を理解していく必要があると思い、今回ご紹介させていただきました。