はじめに
水の冷たさ、綺麗な景色、野生で生きる魚や昆虫等の姿…。
その体験は自然に関わらなければ味わう事ができない部分も多いのではないでしょうか。
しかし、大自然に入ればそこはたちまち「人の世界」ではなくなります。
野生で生きる、あらゆる生物と隣り合わせの「危険地帯」と化すのです。
危険生物の紹介の初回は、
海の危険生物「アカエイ」についてご紹介させていただきます。
アカエイの被害は漁業だけでなく、釣り人や海水浴を楽しみに来た人々にも及んでいます。海でのアウトドアを楽しみたい方は参考までに一度でも読んでいただけたら幸いと思います。
1.「アカエイ」とは、一体何者!?
アカエイは東アジアや日本の沿岸域に広く生息しているトビエイの仲間です。
成体の平均的な大きさは1m前後ですが、中には2m程にまで育った大物も確認されています。
その見た目は押し潰されたかのように平たく、まるで座布団やチェアクッションのようです。体色はその名の通り背中側全体が赤褐色、腹側は白いですがヒレや尾は明るいレンガ色に染まります。
鞭のように長くしなやかな尾の中間には、数cm〜10数cmもの長さの鋭い毒棘があり、個体によっては2本生えている事もあります。
2.アカエイの生息場所とは?
アカエイは浅い海に生息しており、特に砂泥域に好んで生息しています。
しかし、低い塩分濃度の水に多少耐性があるのか汽水域や河口付近でも目撃例があります。
また、
と思い込んではいけません。
北海道の浅瀬にも生息しています。
アカエイは本来大人しい性格をしており、普段は砂泥の中に潜んで、目と噴水孔と尾だけを出してジッとしています。
3.アカエイが危険と言われる理由とは?
何故、アカエイが危険生物として恐れられているのか。
それは彼らの「生態」と「毒棘の殺傷能力の高さ」にあります。
アカエイは普段砂泥に潜っていますが、この状態のアカエイは発見が非常に難しく、
浅瀬を歩いている人が気付かず踏んでしまう事があります。
また、その上を泳いで驚かせてしまい、
カウンターとして尾の毒棘を受ける事になってしまうのです。
また、アカエイはアサリ等の貝類や魚、底生生物やタコ、イカ等が好物で、浅瀬で餌を夢中で食べているうちに潮溜まり(タイドプール)や干潟に取り残されている事もあります。
特に干潟に取り残されている場合はそのまま砂の上に取り残されて弱っている事もありますが、平べったい体を上手く使って縦穴を作り、そこに海水を残して隠れている事があります。
潮干狩りの時に面白がってその穴に手を伸ばせば、
アカエイは身を守ろうとすかさず尾を振り回してしまいます。
海岸に打ち上げられた死体であっても毒は残っているため、
絶対に触らないようにしましょう。
このアカエイの武器である「毒棘」は刺されたり斬られると激しく痛み、
痙攣や嘔吐、発汗、下痢、失神等の症状が出る他、患部が壊死したりアナフィラキシー・ショックを引き起こす事があるほど、強力な毒が秘められています。
また、剣のような両刃と思いきや、
実はノコギリのような返しが両側に付いているため、
一度刺されるとなかなか抜けないという仕掛けになっています。
アカエイの強力な毒と両刃ノコギリの棘という武器による被害に遭い病院送りになったり亡くなってしまった事例は少なくありませんが、一説によると毒で亡くなったのではなく、両刃ノコギリの棘に刺された激痛によるショック死であるとも言われています。
4.もし、アカエイに刺されてしまったら!
浅瀬を歩いていたらアカエイを踏んでしまった、
潮干狩りをしていたらアカエイがいて刺されてしまった…。
その場合はすぐに救急車に連絡をしましょう。
近くに人がいる場合は、救急車に連絡をしてもらい、その間に応急処置をします。
まず、刺された患部から毒を絞り出します。
かなりの激痛かも知れませんが、できるだけ早く多く毒を絞り出します。
しかし、決して口で吸い出そうとしてはいけません。
これは、口の中に口内炎や傷があると吸い出したエイの毒が入り込む可能性がある事と、
口の中の細菌がエイに刺された傷口から入り込んで悪さをする事を防ぐためです。
毒を絞り出したら水や湯水、海水をかけて傷口を洗います。
エイに刺された時の応急処置はここまでなので、
救急車が着いたらすぐに乗って病院で処置を受けましょう。
たまに車で病院に連れて行く話がありますが、
人によっては病院に着く前にアナフィラキシー・ショックを起こしてしまったり、
さらに悪化してしまう事もあるため、相当近場に病院がない限りはすぐに処置を受けやすい救急車を呼ぶようにした方が命を守る方法として正しいかと思います。
5.アカエイによる被害について
アカエイは卵胎性の魚のため、春〜夏にかけて10cm程の大きさの稚魚を出産します。
小さくてもアカエイはアカエイ。
尾には小さいながらも毒棘が備わっています。
地球温暖化による海水温の上昇もあってか年々数が増えており、
漁船の網に大量にかかったり、一緒に獲れた魚や網を毒棘でダメにしてしまいます。
また、アサリ等の貝類が大好物とあって群れで浅瀬にやって来て、
アサリや赤貝等を食べ尽くしてしまう「食害」が問題となっています。
刺される被害も日本だけでなく世界でも知られており、
かの有名なクロコダイルハンター、スティーブ・アーウィン氏は番組収録中にアカエイに刺されて亡くなっています。
他にも浅瀬を泳いでいた男性が真下にいたアカエイを驚かせてしまい、
そのまま大事な所を毒棘で貫かれて死亡した例もあります。
シンガポールでは水族館の飼育員がアカエイに襲われて死亡し、ニュースになりました。
アカエイの毒棘の威力は皆様の想像以上に凄まじく、
アカエイの成体であれば大人の膝下くらいなら簡単に貫通させてしまいます。
斬りつけられたとしても、強力な毒によって患部が腫れ上がり、白く変色してしまいます。
6.もし、アカエイを釣り上げてしまったら…
アカエイに限らず多くのエイの仲間は夜行性なので、
基本的に昼ではなく夜釣りでかかることがあります。
かつて放送されていた「いきなり黄金伝説」という番組では、
あるお笑い芸人が大きな切り身を巨大釣り針に仕掛けて夜釣りをしたところ、
2mはあるであろう巨大なエイ(おそらくマダラエイ)を釣り上げていました。
そんな夜釣りでかかりやすいエイですが、
釣り上げてしまったら尾を棒や足で強く押さえつけ、
ハサミやペンチで毒棘を取り除いてから針を外し、リリースします。
「棘を取るなんて可哀想」と思う方もいると思いますが、
命がかかっているのにそんな悠長な事は言ってられません。
また、エイの毒棘は切り取ってもしばらくすれば生えてきます。
観賞用に輸入されてくるエイの仲間は今は毒棘にカバーをして刺さらないようにしていますが、昔は棘を切り取っていた事もありました。
仮に釣れたアカエイの毒棘にカバーをしたとしても、自然界では邪魔になります。
アカエイは美味しい魚でもあるので、
食べたい場合は包丁やノコギリで尾を落とし、その傷口を海水に浸けて血抜きをします。
早く〆たい場合は体の真ん中あたりを包丁やマイナスドライバー等で貫けば〆る事ができます。アカエイは時間が経つとサメとおなじでアンモニア臭が出るため、素早く捌いて料理にしてください。
アカエイの危険以外の一面について
1. 本当はとても大人しい
毒棘が生えた尾を振り回すイメージがどうしても強いため「獰猛」な性格と思われ勝ちですが、アカエイやエイの仲間は本当はとても大人しい性格をしています。
忘れてはいけないのが彼らが攻撃してくる「理由」。
これは「自分の身を守る」以外に他ならないのです。
また、餌をくれる人を覚える事もあり、
ダイビングスポットの中にはエイと触れ合いを楽しめる所もあります。
エイ達は人にすり寄って餌をねだって来るため、その可愛らしさで人気になっています。
2. 実は食用としてなど、色んな所で利用されている
アサリや赤貝等の食害が問題視されるアカエイですが、
エイの仲間の中でも漁獲量が多く、一番美味しいとされています。
うっすらとピンク色をしている身は繊維が強く、歯ごたえがあります。
また、火を通すと白くなり、身の質感もとても柔らかくなります。
そんなアカエイは食用として「エイヒレ」という干物や練り物系に加工されたり、煮付けや煮こごり、刺身等で賞味されています。
他にも、エイの口はよく動くため、顎の筋肉が発達しており、口の両端にある筋肉を「エイのほっぺた」と呼んでいる地域もあります。
このエイのほっぺたはかなりの希少食材ですが、フライにすると非常に美味と言われています。
また、昔はエイの毒棘を武器として利用していた事もあったようで、エイから取った毒棘を槍の刃の部分として使ったり、棘を割って毒を取り出し、毒矢の毒として使っていたそうです。
3. 水族館でも人気者
実はエイのお腹側に口があるのですが、この口の形がニコニコと笑っているように見えるため、不思議な見た目や泳ぎ方と相まって水族館では人気の高い魚になっています。
4. アカエイの天敵は「サメ」!
砂底に上手く隠れられるし毒棘もあるなら天敵いなさそうじゃない?
と思われそうですが、そこはやっぱり大自然の神秘、ちゃんと天敵がいるのです。
アカエイ等のエイの仲間の天敵は「サメ」です。
特に、ハンマーヘッドシャークとも呼ばれている「シュモクザメ」はエイ達にとって恐怖の対象です。シュモクザメはエイを見つけるとハンマーのような頭でエイを押さえ付け、身動きが取れないうちに食べてしまいます。
シュモクザメは稀に群れで現れる事もあり、
かなり空腹の個体は人を襲う事もあると言われているため、エイを凌ぐ危険生物と言えます。
まとめ
今回は海の危険生物「アカエイ」についてご紹介させていただきました。
アサリの旬は春と言われているため、それに合わせて潮干狩りをしようと計画を立てている人や夏に海水浴を満喫しようと思っている方々に少しでも危険な事があるという注意喚起の意味も含めてアカエイについて執筆いたしました。
アカエイは危険生物ではありますが、こちらから手出しをしない限りは襲ってくるような事は殆どありません。また、意外と身近な食べ物として加工されているので馴染みもあると思います。
エイの笑顔が見たい方は、水族館に足を運ぶと近付いてきたエイが見せてくれるかも知れません。
だからこそ、アウトドアの際は自然に畏怖しながらも敬意を持ち、
その生き物達の対処方法を身に付けるべきではないかと筆者は考えています。
もし、この記事が海のアウトドアに行こうと計画している方の危険生物に対するちょっとした対処方法の1つとしてお役に立てる事を願います。