はじめに
かつて人気を博したこの魚を「危険生物」として紹介すべきかかなり悩みましたが、自然界に与える影響や釣りでかかった時の危険度から敢えて紹介させていただきます。
その独特な見た目や大きな体から人気が高かったガーパイクですが、近年、日本各地の川や沼で見かける事があるという話があります。
某TV番組ではガーパイクの幼魚と思われる個体が見つかった事もあり、他人事ではなくなってきているのが事実です。
1,ガーパイクとは何ぞや?
ガーパイクは「ガー目ガー科」で構成されている魚の一種です。
全身が強固な「ガノイン鱗」に覆われ、鋭い牙が並ぶ長い吻と柔軟性に乏しい棒状の体という特徴があります。
アミアカルヴァやポリプテルスと同じ「古代魚」の一角であり、ガーパイクの最も古い化石の個体は「古生代ペルム期(恐竜より前の時代)」の後期のものと言われています。
目立った体色はありませんが、特徴的な見た目と貪欲な捕食シーンがアクアリウムでは人気でした。
肉食性が強いため、野生では魚や甲殻類を主に捕食し、小さい時期はミジンコやアカムシ、水生昆虫を捕食していると考えられています。
ガーパイクの中でも1番小さい種類は、
吻の短い「ショートノーズガー」で、それでも最大80cm以上に成長します。
最大種は「アリゲーターガー」で、最大3m以上、体重は100kgを超えた個体の記録が残っているモンスターフィッシュです。
ガーパイクは北アメリカやアメリカ中部、中米のキューバに分布しています。また、その中でも湖や湿地帯等の流れの緩やかな場所を好んでいると言われています。
☆実は空気呼吸もできる!
ガーパイクは特殊な浮き袋を持っており、
肺のように使う事で空気呼吸をする事ができます。
この浮き袋のおかげで低酸素状態に陥りやすい環境に生息しているガーパイクの生存率が高まっています。
また、ガーパイクはこの性質上定期的に水面に上がってくるのですが、水面に顔を出して「ゴボッ!」と一気に呼吸します。
2,ガーパイクの危険性について
ガーパイクの泳ぎはかなりゆっくりで、体に柔軟性が無いため餌取りが下手な魚です。
こう聞いてしまうと、
と思われるかも知れません。
しかし、彼らは地球で3度も起きた生物の大量絶滅を生き延びてきた猛者達です。
また、ガーパイクは北アメリカ産のアリゲーターガー、ショートノーズガー、ロングノーズガーは低温でも生き残れる他、卵に毒が含まれているため卵の間は他者に捕食されないという特徴もあります。
★恐怖!水中に消える水鳥…!
ガーパイクの生息地である北アメリカでは、湖で優雅に泳いでいた水鳥が水飛沫と共に水中に消える様子が見られる事があります。
この水鳥の神隠し事件の真犯人こそ、ガーパイクの中でも最大種である「アリゲーターガー」です。その大きな体躯と強靭なパワー、食への貪欲さが桁違いのモンスターフィッシュは、飽くなき食欲を満たすため、力にものを言わせて水鳥を捕食してしまうのです。
■かつての失敗、ショートノーズガーに噛まれた筆者
ガーパイクは、かつてアクアリウムではとても人気の高い魚であり、動物を扱う専門学校では飼育動物として飼育されている事もありました。
筆者が通っていた専門学校にもショートノーズガーが飼育されており、水換えや給餌、観察に勤しんでおりました。
ある日、水換えのために大型水槽のフタを外したところ、このガーパイクは餌の時間と勘違いしてしまったらしく、私の左親指に食らい付いたのです。
とっさに払い除けましたが、鋭い牙に捕らえられた部分はサックリと切り裂かれてしまい、大量出血を余儀無くされました。
10年以上経つ今でも、私の左親指にはその時の傷跡がうっすらと残っています。癒着部分が若干ズレているため、指の形も少し歪んでしまいました。
これは私にとって苦くも貴重な経験となっており、
野生に生きる者達との向き合い方を考える大きなキッカケにもなっています。
そして噛まれた感想、これだけは言えます。
3,「なんでガーパイクが日本の河川にいるの!?」
そう思う方がたくさんいらっしゃると思います。
これは、正直に言うと「アクアリウムの恥ずべき行為」によるものが原因です。
それは、「放流」です。
何らかの理由で飼いきれなくなったアクアリストが近くの河川に放流してしまった事が原因と言われています。
「殺すのは忍びないから…」「こんなに大きくなるとは思わなかった」「餌代がかかりすぎる」。
本当に様々な理由があると思いますが、そんなもの、飼い主の自業自得です。
飼い主による生体や引き取りサービスのリサーチ不足です。
その結果、最も安直で愚かな行為に走ってしまった一部の人のために、ガーパイクは「特定外来生物」として日本の生態系にダメージを与える存在となってしまいました。
日本では呑川や多摩川、琵琶湖で見られており、水産資源へのダメージも危惧されています。
現在は2018年にガーパイクの新規の飼育や輸入等を禁じられています。
☆「可愛いなぁ…」幼魚期の罠!
どんなに厳つい大型肉食魚でも、幼魚の頃は華奢で可愛らしい見た目をしています。それはガーパイクも同じです。
飼いきれなくなった人の中には「幼魚期」の可愛らしさから衝動買いをしてしまい、飼育に行き詰まってしまったパターンもあります。
幼魚期のガーパイクは見た目も大きさも「ボールペン」のようであり、細長い華奢な体にクリクリした目が愛らしい姿をしているのです。
■こんなところにもいるかも!?
北アメリカ産のガーパイクが注目されやすい面がありますが、キューバに生息しているガーパイクも日本で生き残っている可能性があります。
キューバから輸入されてきたガーは「マンファリ」や「トロピカルガー」といった希少価値のある種類であり、マニアには垂涎の存在でした。
この中米に生息しているガーパイクの仲間は時々汽水域に現れる事もあり、ある程度の塩分濃度に適応する事ができます。
また、水温が20℃を超えていれば冬を超せるため、温泉街や工場排水で水温が高い場所に放流されていれば生き延びている可能性があります。
4,もし、ガーパイクが釣れてしまったら…
バス釣りに湖や沼に行ったらかかってしまった!・・なんてことが今後無いとも言えないガーパイク。
・釣り針から外すには?
針がどのようにかかったかによりますが、
外す場合はガーパイクのアゴにかなり気を付けなければなりません。
ガーパイクは特定外来種のため、リリースではなく「駆除」の対象になっています。
釣り上げた場合はエラをナイフで切り、締めてしまった方が針を安全に外す事ができます。
Q,釣れたガーパイクを引き揚げる方法は?
A,ギャフや大物用の網で引き揚げましょう。
ギャフは海釣りでよく聞くアイテムであり、タモ肢に取り付けて使います。
ギャフはフックのような形をしており、これを魚体に引っ掻けて引き揚げます。
・噛まれてしまった場合
ガーパイクの牙は想像以上に鋭く、長い吻の開閉速度も速いです。
もしガーパイクに噛まれてしまった場合は、傷口を流水であらってから消毒し、止血を施します。
傷口が深かったり、動脈をやられてしまった場合は止血しながら素早く救急車を呼びます。
近くに人がいる場合は協力をお願いしましょう。
5,ガーパイクの危険以外の一面について
①食べると美味しい!
カッチカチの鱗に覆われているガーパイクですが、その下にある筋肉はなかなかに美味しいそうです。
生息環境によっては少しニオイがあるようですが、淡白だけど旨味がしっかりしているそうです。
某ジャニーズ番組の厄介者を美味しく食べる企画でお馴染みの加藤さんは自信のYouTubeチャンネルでアリゲーターガーの丸焼きを食べていますが「ホタテと七面鳥を足して2で割ったような味」と言っています。
また、ガノイン鱗は火を通しても硬さを損なう事はなく、そのままの形で剥がれたため、標本にしやすい事も明言されています。
②なかなか生態系の頂点になれない…
国内繁殖の可能性も危惧されているガーパイクですが、琵琶湖で殖えるのはなかなか厳しいと言われています。
その理由は、ガーパイクが繁殖可能になるまでかなりの時間が必要な事と、「琵琶湖の主」に捕食されているからだそうです。
何と、琵琶湖の主こと「ビワコオオナマズ」が成長しきれていないガーパイクを捕食対象にしているため、毒の卵から孵化した稚魚や成魚前の段階の個体が食べられてしまい、上手いこと勢力を伸ばせずにいるのだとか。
ちなみにビワコオオナマズも、アカメ、イトウと共に「日本三大怪魚」として知られる大型種です。
③ガノイン鱗が通用しない!?天敵は「淡水の吸血鬼」!
ガーパイクの全身を覆う鱗の鎧。
かなり硬く、並の魚では傷付ける事すらままなりません。
しかし、そんなガーパイクの鎧を物ともしない天敵がいるのです。
それが「カワヤツメウナギ」「スナヤツメウナギ」等のヤツメウナギの仲間です。
ヤツメウナギは「無顎類」という特殊なグループであり、
その名の通り顎がなく、代わりに鋭い牙が並んだ吸盤状の口を持っています。
この口の吸引力や破壊力は凄まじく、
ガーパイクのガノイン鱗を易々と食い破り、体液を吸います。
吸い付く場所によっては返り討ちにされそうですが、何とヤツメウナギの仲間は体から毒素を出す事で外敵から身を守っているため、ガーパイクは反撃できずに一方的に吸血されてしまうのです。
④実は性格は大人しい
ガーパイクは、食べる事には貪欲ですが、その性格は決して狂暴ではなく、むしろとても穏やかな性格をしています。
飼育が許されていた頃は大型魚の混泳水槽のタンクメイトとしても有名でしたが、性格が大人しいためにナマズやアロワナにちょっかいをかけられる事もしばしばあったようです。
⑤小回りが効きません!
ガーパイクの体には柔軟性がなく、
長い距離を猛スピードで泳ぐ事ができない等のドジっ子属性が垣間見えます。
オイカワやフナも捕食対象なのですが、日本の魚は泳ぎがかなり得意な種類が多いため、ガーパイクが入れない茂みにすぐに隠れてしまいます。
そうなってしまうとガーパイクは茂みに吻先を突っ込む事しかできず、お手上げ状態になってしまうのです。
この状況を考えると、日本の在来種にとってガーパイクよりも小型で小回りも効き、
大食漢のブラックバスの方が厄介なのかも知れません。
まとめ
今回は悲しき危険生物・ガーパイクについて皆様にご紹介させていただきました。
ガーパイクは基本的には人を襲う魚ではなく、釣りでヒットした時に助かろうと暴れて噛んでしまいます。その威力がかなりのものなので、今回危険喚起の意味合いで記事にさせていただきました。
また、先ほどもご紹介したように、実際はかなり大人しく、人によく慣れる可愛い大型魚です。
今は水族館や一部の施設でしか見られませんが、気になった方は是非、ガーパイクに会いに行ってみてください。危険生物としてではなく、ただの1匹の人懐こい魚である事が解っていただけると思います。