日本産淡水魚は繊細な色彩を持ち、無駄のない泳ぎをする種類だけでなく、海外の肉食魚にも退けを取らない野性味溢れる魅力を持つ種類もいます。
その内に秘めた強い野性と佇まいから生まれる力強い美しさは、多くの人々の心を惹きつけて離しません。
今回は仄暗い川底の重鎮「ドンコ」について皆様にご紹介させていただきます。
ドンコは日本の淡水に生息するハゼ系の中では最大級の大きさを誇り、その性質は荒々しいですが人気が高い魚でもあります。
1,日淡界の重鎮・ドンコの特徴について
①分類は?
ドンコはスズキ目、または「ハゼ目ハゼ亜目ドンコ科ドンコ属」に分類されている魚です。
学名は「Odontobutis obscura」となっています。「Odontobutis」は「歯があるノコギリハゼ」を意味しており、「obscura」は「薄暗い」という意味があります。
②どのくらいの大きさなの?
成長したドンコの大きさは日本産淡水ハゼの仲間の中では最大級の25cmほどです。
③生息地はどんな所?
ドンコは世界的な分布としては日本以外に韓国でも生息している事が知られています。
日本国内では主に西日本に分布しており、特に新潟県、愛知県以西の本州や四国、九州の河川に分布しています。
かつては栃木県の河川がドンコの生息地の最北端とされていましたが、文献や報告書からカワアナゴの仲間と間違った可能性があったため、関東地方の河川には「自然分布しているドンコはいない」という説が一般的です。
ドンコが生息している環境は、水の流れが緩やかで川底の地質が砂礫になっており、身を隠したり繁殖に使うための岩や水草、流木があるような場所です。
④どんな見た目をしているの?
ドンコは他のハゼの仲間やカワアナゴの仲間とは違い、かなり頭部が大きいという特徴があります。
その頭部は少し上から押し潰したような形状になっており、横幅があるためかなり目立ちます。
口もかなり大きく、その中には鋭い牙が並んでいるため餌となる小魚やエビを捕らえて離しません。
また、獲物を下から一気に丸のみするような捕食方法のためか、下アゴが上アゴより前方に少し飛び出ており、見事な「シャクレフィッシュ」と言えます。
その一方で、胴体は頭部と比較して短く、尾柄に近付くに連れて細くなる「円錐形」に近い形をしています。
胸ビレは大きく扇のような形をしており、背ビレはハゼやカワアナゴの仲間のように第一背ビレと第二背ビレに分かれています。
この背ビレはドンコの厳つい体型にしては小さめで、ドンコのチャームポイントです。
尾ビレは威嚇の時や移動する時に団扇のような形に開きますが、基本的には軽く畳まれたようになっています。
野生下のドンコは川底の石や砂礫に擬態したり、岩の下にできた窪みなどに身を潜めて暮らしているため、その体色も川底の砂や石を彷彿とさせる淡褐色や濃灰色などをしています。
それに加えて第一背ビレ、第二背ビレ、尾ビレの付け根辺りに黒〜黒褐色の3対のスポットがあるのも特徴です。
⭐ヨシノボリみたいに張り付けない!
一見するとずんぐりとした、大きなハゼのような見た目をしているドンコですが、腹ビレは完全に2つに分かれているという特徴があります。
そのためドンコは同じような環境に生息する「ヨシノボリ」のように岩や流木に張り付いて移動したり、体を固定させる事ができません。
これは両者の生活の仕方が良く分かる特徴でもあります。
ヨシノボリの体は小さく水の抵抗を比較的受けにくい体型をしており、腹ビレを石や流木に張り付ける事で水の流れが早い場所や小さな堰でも移動できます。
⑤どんな物を食べているの?
前の項目でも少し触れていましたが、ドンコは肉食性の魚です。
野生下では川底の石になりきって獲物を油断させ、大きな口で一気に捕食します。
主に捕食しているのはオイカワやハヤなどの小魚やエビ、カニなどの甲殻類、落下昆虫なども積極的に捕食しています。
また、稚魚や幼魚といった体がまだ小さい頃は、アカムシやイトミミズといった水生生物や稚エビ、ミジンコなどを捕食しているとされています。
⭐『「上手く食べれた!」と思っているのか!』
岩陰に潜み、ジッとして周りの石と同化する事で獲物に気付かれず、目の前に来た獲物を大きな口で一気に丸呑みにするのがドンコの食事の作法です。
獲物が気付いた頃には既にドンコのお腹の中。いくら暴れても手遅れです。
しかし、ある研究データによるとドンコの体内から生還できる魚がいるのが分かってきました。
その魚は何と「ウナギ」!
以前ブログでも紹介した事があるニョロニョロボディーが特徴の日淡です。
川を遡る若くて細長い個体がドンコに狙われているようなのですが、パクリと食べられても体表の粘膜のおかげでほとんど傷付かずツルンと飲まれてしまうようです。
「食べられてるじゃん!」と思った皆様、若いウナギの底力を侮るなかれ。
ほぼ無傷でドンコに飲まれた若いウナギは他の魚にはできない「バック泳ぎ」を使い、口からではなくエラからツルンと脱出するのです。
この様子はウナギ研究の際の実験で確認されており、よほど運が悪くなければウナギは捕食されても上手い事天敵の体内から逃げおおせているのです。
⑥別名はあるの?
日淡の中でもドンコは地方名が多い種類です。
ショップではそのまま「ドンコ」とされていますが、地方名では「ドカン」「ドロボウメ」「ウシヌスト」「コジキマラ」などがあります。
特に鹿児島県では「ゴモ」と呼ばれており、ドンコの大きな口や体色、目などが「ヒキガエル(ガマ)」に似ているからそう呼ばれるようになったと考えられています。
⭐君達も「ドンコ」!?
一般的に「ドンコ」と言えば本種を指すのですが、地方名によっては全く違う種類の魚がドンコと呼ばれる事があります。
以前皆様にご紹介させていただいた「カジカ」と「カワアナゴ」も地域によっては「ドンコ」と呼ばれる事があります。
また、地域によってはスーパーなどで切り身になって「ドンコ」として販売されている事もあります。
この場合は本種である事はほとんどなく、海に生息している全く別種の「チゴダラ」や「エゾイソアイナメ」です。
⑦気になる性格は?
ドンコはハゼの仲間の中では一生を淡水で過ごす「純淡水性」という珍しい特徴があります。
そんな彼らは常に一匹で生活しており、繁殖期にペアを作る以外では、それぞれ縄張りを作ってソーシャルディスタンスを守っています。
⭐貪欲だけど人に慣れる事も!?
動く物は餌だと認識して食らいつく事が多いドンコですが、大切に飼育していると飼い主の事を認識して自ら寄って来る事もあります。
ドンコ飼育者の中には水槽に手を入れたら乗ってきたという動画をアップしている事があり、「手乗りドンコ」として紹介されています。
⑧気になるお値段は?どこでお迎えできるの?
日淡の中でもドンコはポピュラーな種類なので比較的見かけやすいです。
そのため日淡も扱っている総合ペットショップやアクアショップ、日淡水魚の専門店、通販などでお迎えする事ができます。
また、近くにドンコが生息している河川や用水路がある場合はタモを使った「ガサガサ」や餌釣りなどで捕獲する事もできます。
気になるお値段ですが、ドンコは大型種という事もあり、その大きさによって値段の上下が変動します。
あくまで目安ですが、まだまだあどけなさが残る幼魚サイズであれば、1匹あたり大体500〜1000円前後くらいです。
⭐大切に飼育すると!
ドンコは日淡の中でも寿命が長い種類です。
1年や3年ほどで寿命を終える種類が多い中、大切に飼育されたドンコは10年以上生きる事があります。
2,ドンコの飼育で注意すべきポイントとは?
ハゼの仲間の中では比較的水の汚れに強く、餌付けも難しくない、さらには純淡水性なので水質にうるさくないのも魅力なのがドンコです。
しかし、そんなドンコも丈夫さや水質の適応範囲に甘えているような飼育をしてしまうと病気になってしまったり、徐々に体調を崩してしまい短命に終わる事も少なくありません。
〜ドンコ飼育の注意すべきポイント〜
- 同居している魚やエビを食べてしまうので、基本的には単独飼育をする事。
- 石や流木などをレイアウトして隠れ家を作る事。
- 極端に弱酸性、または弱アルカリ性に傾いた水質で飼育しない事。
- 餌を与える時はピンセットやスポイトを使って目の前で動かしてあげる事。
- 高水温には弱いので水温は25℃を超えないように気を付ける事。
- 酸欠に弱いのでエアレーションやフィルターによる酸素供給はしっかりする事。
これは爬虫類でいうと「カメレオン」に近い性質でもあります。
また、忘れられがちですがドンコは冷水〜温水域の魚なので高水温には弱い面があります。
3,ドンコの飼育方法について
①お迎え、水合わせについて
ドンコは川魚にも力を入れている総合ペットショップやアクアショップの他、川魚の専門店などで販売されており、日淡の中でも比較的ポピュラーな種類なので見かける頻度は高めです。
もし近くにドンコを扱っているショップが無い場合は通販を利用するのもオススメです。
また、近くにドンコが生息していそうな河川や用水路がある場合は、タモを使った「ガサガサ」や釣りによる採集をするのも趣があります。
ショップでドンコをお迎えする場合は、忘れずに「健康チェック」をしましょう。
体表やヒレに付着物はないか、充血や肌荒れはないか、指を振った時に反応するかなど元気の良さを確認し、特に問題が無ければ店員さんにお願いしてドンコをパッキングしてもらいましょう。
野生で採集した場合も同じように健康チェックをします。
釣りで採集した場合は針がかかった部位には少なからず傷があるので、水槽に入れる前にメチレンブルーやグリーンFゴールドなどで消毒のための「トリートメント」を1〜2日ほどしてから改めて水合わせを行い、水槽に導入すると傷口からの感染症予防にもなります。
水槽に導入する前には必ず「水合わせ」を行い、水質の変化によるショックが起きないようにしなければなりません。
水合わせの方法は大きく分けて2つあります。
1つは水槽に袋を浮かべたまま袋の中の水を少し捨て、水槽から捨てた分と同じ量の水を足し、数十分様子を見て異常が無ければ袋の中の水がほぼ水槽と同じになるまで繰り返す方法。
もう1つは、一度バケツや衣装ケースなどに放ってからエアチューブ、調節弁などを使って水槽から水を引き込み、流入量を調節しながら数時間かけて水に慣らす方法です。
個人的には、まだ小さい個体は前者の方法、しっかり育っている個体は後者の方法が水合わせはやり易いです。
水合わせが終わったら、いよいよドンコを水槽に移動させましょう。
ドンコはオイカワやヤマメのように泳ぎ回るタイプではないため、すぐに底層に移動して隠れてしまいます。
また、導入初日はどうしても環境に慣れていないため、餌の反応も悪い事がほとんどです。
②水槽、水質、水温について
ドンコは成長すれば25cmほどに成長する大型のハゼの仲間ですが、ヨシノボリのように活発に動き回る事が少ないので、45cm水槽で飼育する事も可能です。
しかし、ドンコは肉食性が強く水を汚しやすい面があるため、ここでは水量も広さもある60cm水槽または90cm水槽での飼育を推奨させていただきます。
これは、水量が多い分水が汚れる速度は緩やかになる事と、ある程度広さがあればドンコがターンする時も余裕があるというメリットがあるからです。
とはいえ、15cmに満たない小さな個体であれば45cm水槽でもしばらくは飼育する事ができますので、大きくなってから水槽を替えても遅くはありません。
気になる水質ですが、極端に酸性やアルカリ性に傾いた水質でなければ特に問題はありません。
生息地の環境に近い中性〜弱アルカリ性の水質が理想的ですが、ph6.5くらいの弱酸性であれば難なく適応してくれるため、そこだけ気を付けていれば水質の管理も川魚の中では比較的簡単な種類と言えます。
水温に関してですが、注意すべきポイントに挙げた通り、ドンコは高水温には弱い一面があるため25℃を超えないように注意が必要です。
水温計を設置して水温を目視できるようにする他、水温を一定にするためにヒーターを使う場合はメダカ用の23℃設定の商品を使ったり、サーモスタットで25℃以下に設定して使うのがオススメです。
また、ドンコは底層を生活圏にしているため、触れて火傷をさせないためにもヒーターカバーを装着したり、底層から10cmほど離した位置にヒーターを設置するなどして対処しましょう。
水温の変化が少ない場所に水槽が設置できる場合は無加温飼育も可能ですが、気温が上がり水温にも影響しやすい夏場はクーラーやファンを使ったり、凍らせたペットボトルなどで水温が上がりすぎないよう対策が必要となります。
高水温に弱いドンコですが、低水温にはかなり強く、5℃くらいの水温でも平気な顔をしています。
③底砂について
隠れ家さえあれば底砂が無くても飼育は可能ですが、底砂を敷く場合は水質を極端に酸性またはアルカリ性に傾ける作用がある物で無ければ飼育に使う事ができます。
④フィルターについて
どの種類のフィルターでも使う事ができますが、水を汚しやすいため水質浄化力が高い上部式フィルターや外部式フィルターがオススメです。
⑤隠れ家について
ドンコは擬態をしたり、岩陰に隠れて過ごす性質があるため水槽には必ず隠れ家をいくつか用意するようにしましょう。
石や流木を設置したり、土管や半分に割った植木鉢も良い隠れ家となります。
⑥水草について
ドンコ自体は水草にイタズラをしたいという訳ではないのですが、普段から底層でジッとしていたり、力が強いため泳いだ時に水草を引っかけて抜いてしまう事があります。
そのため底層にたくさん水草を植える事はせずポイント的に植えるのが無難であり、底砂にしっかりと根を張りやすい「バリスネリア」や石に活着させやすい「アヌビアス・ナナ」「ミクロソリウム」はドンコ飼育でも育てやすい水草です。
また、引き抜かれやすくはありますが「マツモ」や「アナカリス」は水質浄化能力に優れているので、敢えて水面に浮かばせておくのもレイアウトの1つの形でもあります。
⑦混泳について
縄張り意識も強く、かなり貪欲な性質を持つドンコは同種多種問わず混泳には向いていません。
しかし、期間限定ではありますが幼魚のうちは口に入らないサイズの魚達と混泳させる事ができます。
その際はアブラボテなどのタナゴの仲間やモロコの仲間が主なタンクメイトとなります。
しかし、それなりに注意も必要で、泳ぎが下手なドンコは給餌の時にタンクメイトに餌を取られてしまい、食べられない事も少なくありません。
さらに、空腹になってしまった小さなドンコがタンクメイトのヒレを齧ってしまう事もあるので彼らの状態に配慮する必要があります。
⑧給餌について
ドンコは肉食性が強く、基本的に餌と認識すれば何でも食べてくれます。
口の大きさに合わせて、活き餌であればアカヒレやメダカ、オイカワなども良い餌になります。
ドンコに餌として認識してもらうためにスポイトやピンセットなどで動かしたり近くに落とす必要がありますが、冷凍飼料であればワカサギも使えますし、ドンコが小さいうちはブラインシュリンプやアカムシ、ホワイトシュリンプ、イトメも与える事ができます。
また、人工飼料に慣れさせる事もでき、「カーニバル」や「乾燥クリル」「乾燥川エビ」も水分を含ませてからピンセットで挟んで動かしてあげると、大きな口を開けて飲み込んでくれます。
稚魚や幼魚の時は顆粒タイプやフレークタイプの人工飼料にも反応して食べる事があり、浮上性の人工飼料でも水流で動いていれば食べに行く事もあります。
この時使うピンセットは先端が尖った物ではなく、丸みを帯びている物を使うようにします。
先端が尖った物を使うと、ドンコが餌を食べる時に口を傷つけてしまう可能性が高いです。
プラスチック製のピンセットも良いですが、爬虫類用に販売されている「竹製ピンセット」もかなり使いやすいのでオススメです。
給餌の頻度ですが、頻繁に餌を与えすぎると消化不良を起こしやすくなるので稚魚または幼魚の時は1日に1回、成魚は2〜3日に1回を目安にお腹がふっくらするまで餌を与えます。
また、餌を与えるタイミングが難しく感じるようであれば、ドンコがフンをした、またはフンが確認できたタイミングで餌を与えるようにすると反応も良く、ドンコのお腹に負担をあまりかけずに済みます。
■肉食魚の餌の食べすぎは危険!
可愛い魚達に餌をあげる時間というのは彼らとの数少ないふれあいの一時でもあります。
その中でもドンコやオヤニラミ、カワアナゴなどの肉食魚の給餌はワイルドな一面を見られるため、ついつい餌を与えすぎてしまう事も少なくありません。
しかし、肉食魚達の消化器官は私達が思っている以上に繊細であり、一度餌を食べると時間をかけてゆっくりと消化していきます。
そのためフンが確認されるまでは意外と体内にまだ未消化で餌が残っている場合もあるのです。
この「餌をまだ消化しきれていない状態」の彼らに頻繁に餌を与えてしまうと消化器官に負担がかかり、突然死の原因になってしまうため注意が必要です。
この餌の与えすぎ、食べすぎによる突然死はドンコ以外にもライギョやオヤニラミにも見られる事があり、海水魚では疑似餌をフリフリする様子が人気の「カエルアンコウ」の仲間などが知られています。
Q,アカヒレとメダカって活き餌としての違いはあるの?
A,アプローチや消化の面で多少の違いがあります。
しかし、メダカとアカヒレでは活き餌として多少違いがあり、アカヒレの方が肉が多く骨が柔らかいため栄養価が高く消化に良いとされています。
また、アカヒレの体に走るネオンカラーが目立つため良いアプローチになります。
一方でメダカはアカヒレより肉が少ない分ヘルシーですが、骨がしっかりしておりカルシウム補給に向いていると言えます。
また、栄養価はしっかりガットローディングができていればそこまで悩む必要はないと思います。
これらの特徴を理解しながら上手く使い分ける事でメニューも充実しますし、餌に飽きさせる可能性が少なくなります。
⑨掃除、水換えについて
水槽の汚れ具合にもよりますが、1週間〜10日を目安に水槽内の掃除と1/4〜1/2の量の水換えをします。
掃除と水換えの時には必ず飼育器具の電源を切ってから行うようにしましょう。
水槽内面のコケやヌメリなどの汚れは「コケクロス」や「メラミンスポンジ」「スクレーパー」などで落としますが、無い場合は三角定規などでも代用は可能です。
しかし、ドンコの水槽掃除は気を付けなければならない事もあります。
まず、ドンコの動きに注意する事です。
ドンコは動く物を餌として認識して襲いかかってくる事があるため、水槽掃除の時や水草のトリミング中に手やハサミ、スポンジなどに食らいつかれないようにドンコの目線や頭の向きなども観察しながら作業を進めます。
次に、ドンコは基本的に泳ぎ回るような事はありませんが、何かの拍子に驚くと暴れてしまう事があります。
日本産の淡水ハゼの中でも最大級の大きさを誇るドンコは力も強いため、水槽内で暴れられると水が溢れてしまう事もあります。
同じ肉食性が強いオヤニラミやカワアナゴとは違い、ドンコはドンコの特性ゆえの注意点があるので、そこは理解を深めながらお世話をしていきましょう。
水槽内面の掃除が終わったらフィルターの揚水パイプとストレーナーを外し、水槽外に出してから専用のブラシで中に溜まった汚れを落とします。
レイアウトに使っている石や流木の場合は歯ブラシなどで汚れを擦り落としますが、レイアウトの変更も考えている場合は水槽外に取り出してからタワシなどで洗いましょう。
水槽内に水草を植えていて、かなり成長している場合は不要な葉や枯れ葉の処理、水草の長さを調整するためにトリミングをします。
トリミング中はハサミや指に興味を持たれないように注意しながら慎重に作業し、トリミングで出た不要な葉や茎などはネットで集めて燃えるゴミとして処分しましょう。
間違っても庭や河川に捨ててはいけません。
水槽内に大体の掃除が終わったら、クリーナーポンプを使って汚れを水ごと排出します。
この時が一番ドンコを驚かせやすいので、ドンコが隠れている場所を把握しながら作業します。
水抜きが終わったらあらかじめ用意しておいた新しい水を水槽に足していきます。
この新しい水は、カルキ抜き、水温合わせ、水質合わせが済んでいる状態でなければいけません。
脚立などを使って水槽より高い位置に水が入ったバケツなどを設置できる場合はエアチューブやホースを使い「サイフォンの原理」を応用して水を足す事もできますが、難しい場合はカップなどを使って新しい水を水槽に足していきましょう。
水面をあまり揺らしたくない場合はビニールシートや袋を水面に浮かべ、そこに水を落とすようにする他、お皿を水槽内に置く、ガラス面に伝わせるように水を入れるなどの方法があります。
新しい水を足し終わったら、フィルターの揚水パイプとストレーナーを設置し、飼育器具の電源を戻せば水槽掃除は完了です。
フィルター掃除に関してですが、投げ込み式フィルター、パワーフィルター、外掛け式フィルターの場合は濾過材が一体型の場合が多いため、目詰まり防止のために水槽掃除の時に飼育水で軽くすすいでおきましょう。
濾過力の低下が目立ってきたり、濾過材の傷みや汚れが酷い場合は新しい物と交換します。
上部式フィルターや外部式フィルターの場合も、物理濾過を担当するウールマットはこまめに洗って汚れを落とし、目詰まりの原因を解消するのが個人的にはオススメです。
底面式フィルターの場合は底砂が濾過材の役割を担うため、2〜3ヶ月か遅くても半年に一度くらいは底砂を取り出して洗ったり、フィルター自体も洗って溜まった汚れをキレイにしましょう。
生物濾過材は大体2週間を目安に一度は飼育水で軽くすすいで溜まっている汚れを軽く洗います。
商品によっては交換目安が記載されている物もあるので、把握しておくと生物濾過材の交換忘れ防止にも繋がります。
4,ドンコがかかりやすい病気と治療方法について
日淡の中でも適応力が高く丈夫な種類と言われるドンコですが、長期に渡って掃除や水換えをサボったりしてしまうと体調を崩して病気になってしまいます。
①寄生虫症
イカリムシやチョウ(ウオジラミ)が寄生してしまった状態で、寄生虫に体液を吸われて弱ってしまったり、寄生虫を落とそうとして体を石や流木に擦り付けた結果傷ができてしまうと感染症の原因にまで発展する事もある侮れない病気です。
ハゼの仲間やライギョなどにもよく見られ、体表を観察していると寄生虫を見つける事ができます。
特にガサガサなどで野生採集した魚は寄生されている場合も少なくありません。
イカリムシの場合は錨型の頭部を魚の筋肉組織に食い込ませている状態で、肉色をした柔軟性の無い長い棒状の体が露出しています。
チョウ(ウオジラミ)の場合は5〜10mmほどの半透明な円盤状の体を持った寄生虫で、イカリムシより見つけにくく、体液を吸われた箇所に血が滲むようになります。
これらの寄生虫症が発生する理由は自分で野生から採集した個体という以外ではショップの段階で既に寄生されており気付かず導入してしまった事と、餌として与えていた活き餌が寄生経路になってしまった事があげられます。
治療方法ですが、ピンセットで駆除する方法と駆虫薬を使った方法があります。
ピンセットで駆除する場合ですが、イカリムシは頭部がしっかり食い込んでいるので途中で千切れないように慎重にピンセットで引っ張り、頭部も引き抜きましょう。
イカリムシの頭部を残してしまうと再生してしまうため注意が必要です。
チョウの場合は見つけにくい体をしているのでルーペなどで居場所を把握しながらピンセットで剥がしていきます。
駆虫薬を使った治療の場合は、「リフィッシュ」「トロピカルN」といった薬品を使います。
トロピカルNは熱帯魚用なのでリフィッシュを使いますが、リフィッシュは効果が高い分使用量は規定に沿い、酸欠防止のために強めのエアレーションをする必要があります。
寄生された個体を治療用水槽に移したら規程量の駆虫薬を入れ、強めのエアレーションをして様子を見ます。
駆虫薬が効いてくると、寄生虫が剥がれて水底に落ちてきます。
これを2〜3日続けて剥がれ落ちた寄生虫がこれ以上増えない場合は駆虫は終了です。
②吸虫症
こちらも平たく言えば寄生虫症なのですが、エラに寄生する分イカリムシやチョウより厄介かつ死亡率が高いので分けてご紹介させていただきます。
原因となっているのはダクチロギルスやギロダクチルスといった吸虫の仲間です。
この寄生虫はエラに寄生するため、エラブタの開閉がゆっくりになったり閉まらなくなったりする症状が見られます。
この状態が続くと体液を吸われるだけでなく酸素を上手く取り込めないため徐々に弱ってしまい、最終的には死に至ります。
また、寄生された魚も寄生虫を落としたいがために頭やエラブタ、体を石や流木に擦り付けてしまうため、その傷口が感染症の原因になる事もあります。
発生の原因としては、既に寄生されていた魚を導入してしまった事、寄生されていた活き餌を与えてしまった事などが挙げられます。
治療方法ですが、治療用水槽に病魚を移してから寄生虫症と同じように駆虫薬を使った薬浴を行います。
駆虫薬にはリフィッシュを規定量を守って使い、強めのエアレーションをします。
駆虫薬が効いてくると、エラから吸虫が落ちてきます。この薬浴を2〜3日続けて底に落ちた吸虫の数が増えなくなったら駆虫は終了です。
③白点病
熱帯魚だけでなく日淡にも現れる面倒な病気です。
体表やヒレに数個の白い点々が現れますが、次第に数を増やしていき、目やエラを白点が塞いで最終的には死に至ります。
また、白点は痒いのか、これを落とそうと石などに体を擦り付けて傷を作ってしまう事も少なくありません。
発生の原因として、病気の魚を導入してしまった事や水温、水質が急変した事などが挙げられます。
治療には薬浴か塩水浴を行います。
ドンコは幸い適応力が高く、多少の塩分濃度には耐えられるため、白点の数が少ない初期症状であれば塩水浴で治療できます。
この場合は水10Lに対し50gの塩を混ぜた塩水を治療用水槽に作り、そこに病魚を移します。
一週間に一度水換えをしますが、その際に白点がなくなっていれば治療は終了です。
白点の数が多い場合は薬浴を行います。使う薬品はメチレンブルー、マラカイトグリーン、アグテン、グリーンFを使います。
治療用水槽に病魚を移したら、規定量の薬品を投薬して治療します。
アグテンの場合は3日に一度、メチレンブルー、マラカイトグリーン、グリーンFの場合は一週間の一度、「グリーンFクリアー」という薬品の場合は二週間に一度を目安に半分の量を水換えし、新たに投薬します。
白点病は症状が進行していると、けっこうしつこい病気なので治療期間が長くなる事も少なくありません。
④水カビ病
「綿カビ病」「綿かぶり病」という別名もある病気で、水カビの菌糸がヒレや体表、傷口に付着した結果、魚の体から水カビが生えてくるという恐ろしい病気です。
体からカビが生えるという時点でも恐ろしいですが、水カビ病の患部は白く爛れたようになるのも特徴です。
これは、カビの菌糸が筋肉組織を分解しているためで生きたまま分解される恐怖もあります。
発生の原因ですが、餌の与えすぎによる食べ残しを放置してしまった事と並行して、濾過バクテリアが機能していない環境となっている事などが挙げられます。
治療方法として薬浴、塩水浴が主ですが、ヒレ先にちょっと生えているくらいであれば、ピンセットなどで簡単に除去できる場合もあります。
塩水浴をする場合は水10Lに対し50gの塩を混ぜて作った塩水を治療に使います。
薬浴をする場合はアグテン、メチレンブルー、マラカイトグリーン、グリーンF系を使います。
薬浴や塩水浴をする前に、水カビのフサフサしている部分を患部を傷つけないようにハサミで切除しておくと塩水や薬品が水カビに入りやすくなりますが、不安な場合はそのまま治療に移りましょう。
塩水とメチレンブルー、マラカイトグリーン、グリーンF系の場合は一週間に一回、アグテンの場合は3日に一度半分の量の水換えをしてから新たに投薬、または塩水を足します。
⑤エロモナス症
アクアリウムの世界では感染力の高さ、致死率などから恐れられている病気です。
症状によって呼び名があり、ウロコが逆立つ「松かさ病」や目が飛び出す「ポップアイ」、ウロコが剥がれて体に穴があいたような「穴あき病」などがあります。
初期症状は体表やヒレの至るところに充血が確認できるようになりますが、ドンコの場合はお腹や尻ビレ、腹ビレが観察しづらいため注意が必要です。
症状が進行していくと徐々にウロコが逆立ったり、目が飛び出してきたり、ウロコが白く変色してポロポロと剥がれるなどの変化が出てきます。
発生の理由ですが、病気の魚を導入してしまった事や水質の悪化、古い餌または腐敗した餌を食べてしまった事などが挙げられます。
治療には薬浴を行い、使う薬品はエルバージュ、パラザンD、観パラD、グリーンFゴールドなどを使います。水換え頻度は3〜5日に一度半分の量の水換えをしてから新たに投薬します。
エロモナス症はかなりしつこい病気で、治療期間も長くなる事は珍しくありません。
5,ドンコの繁殖について
雌雄判別は難しいですが、ドンコもペアが揃っていれば飼育下でも繁殖する事が知られています。
しかし、ドンコの産卵数はかなり多いので、生まれてくる命にしっかり責任を持てる方は挑戦しても良いと思います。
①繁殖期について
ドンコの繁殖期は4〜7月です。この時期になるとオスのドンコの体色は全体的に黒ずみ、メスとの見分けもつきやすくなります。
また、オスは自分が縄張りにしている石や流木の下を掘って洞窟を作り、メスにアピールをして巣穴に誘い込みます。
オスのアピールを受け入れたメスは巣穴の天井部分や壁、床などに産卵し、産卵後は卵のお世話をオスに託して巣穴を出ていってしまいます。
⭐巣に「不届き者」が来る事も!
ドンコもオヤニラミもオスが卵や仔魚を守り育てるという性質が特徴的ですが、この性質を利用しようとする種類もいます。
それは「ムギツク」という魚で、子育てを頑張るお父さんの目を盗み、何と自分の卵をその中に紛れ込ませる「託卵」を行う事が知られています。
強くて子育ても得意な彼らの卵に紛れ込ませてしまえば安全に孵化まで育ててもらえる事を理解しているのです。
②卵の形について
産卵直後の卵は鮮やかな黄色をしており、形は紡錘形です。
大きさは約5mmほどで、幅より長さがあります。この特徴はヨシノボリなどのハゼの仲間にも見られます。
卵は基本的に巣穴の天井や壁からぶら下がっていますが、飼育下では巣穴ではなくフィルターの揚水パイプや水槽のガラス面を使う事もあるため、外敵がいない安心して子育てができる状態であれば意外とオープンなのかも知れません。
③オスの子育てについて
ドンコのオスはメスに託された卵を甲斐甲斐しくお世話します。
⭐ドンコが「鳴く」!?
鳴く魚というのは非常に数少ないのですが、大抵は威嚇や水から出されてしまった時などが多いです。
しかし、ドンコの鳴き声は繁殖期の中でも子育ての間しか聞く事ができません。
「グゥ〜…」「ググゥ」といった鳴き声を定期的にお父さんドンコは発するのですが、この鳴き声は愛好家達から「子守唄」と呼ばれています。
④飼育下で繁殖した場合
基本的に飼育下で繁殖した場合は卵のお世話はオスに任せましょう。
■子育て中に悲劇があったら!?
子育てが大変なのは人間も魚も一緒ですが、子育て中に何らかの理由でお父さんドンコが死んでしまう可能性も0ではありません。
もし子育て中にお父さんドンコが死んでしまった場合は、卵が産み付けられた巣穴にエアレーションをするか、パワーフィルターを沈めて巣穴に水流が入るようにします。
この時、パワーフィルターの水流は調節して強すぎないようにしましょう。
上手く育っていくと、卵の中に体の色素や目が確認できるようになります。
また、さらに成長して卵の中の体がしっかりできて黄色いヨークサックも小さくなってきたらパワーフィルターを取り出してエアレーションに変えます。
これは孵化間もない仔魚がパワーフィルターに吸い込まれないようにするためです。
⑤卵が孵ったら!
生まれたばかりの稚魚達は既に親に近い見た目をしています。
泳ぎは得意ではありませんが、底砂の上をピョンピョンと跳ねるように移動します。
また、体はとても小さいですが食欲旺盛で、インフゾリアや湧かしたてのベビーブラインシュリンプなども食べようとします。
⑥孵化後2〜3週間後には稚魚もサイズに分けて飼育!
生まれてすぐに底生生活を始め、たくさん餌を食べて成長していくドンコの稚魚達ですが、生まれたタイミングや食べれた餌の量の違いからか大きさに差が出てきます。
大きさに差が出たまま飼育を続けると大きな稚魚が自分より小さな稚魚を捕食する「共食い」が起こってしまいます。
⑦2〜3ヶ月後にはすっかりドンコに!
孵化して間もない状態でも親に近い見た目をしているドンコの稚魚ですが、まだまだ体色も薄く体も貧弱です。
しかし、共食いや突然死にもめげず大切に飼育していると、2〜3ヶ月頃には薄いながらもドンコらしい体色と模様が出て、ヒレもしっかりしてきます。
6,ドンコと人間の関係について
ずんぐりとした見た目と体色や頭部の厳つい感じが人気のドンコですが、アクアリウム以外で私達人間とも関係があったりします。
①ドンコは食べられていた!?
飼育、または釣りなどのイメージが強いドンコですが、食用として一般的に出回ってはいないものの食べられる魚とされています。
その場合は唐揚げや塩焼き、味噌汁などで賞味されるそうですが、しっかり火を通さないと寄生虫による被害が出る可能性が高いそうです。
②適応力は高いけど…
ドンコは極端なphの傾き、特に酸性に傾かなければ環境に適応する事はできます。
そのため開発による水の汚濁や堰、消波ブロックに対しても適応して生活する事はできます。
しかし、野生のドンコを追い詰めているのは、これら開発によって餌となるエビや小魚が減ってしまう事だったりします。
ドンコ達が大丈夫でも、獲物が環境に耐えられなかったら本末転倒です。
まとめ
今回はずんぐりボディーと渋い魅力がたっぷりの日淡・ドンコについて皆様にご紹介させていただきました。
ドンコは日淡の中でもポピュラーな種類でありながら、見た目の渋さや獲物を捕食する時のワイルドさが人気を集めています。
また、寿命も長く丈夫で、大切に飼育すれば人に慣れる種類なので、注意すべきポイントを守れば初心者にもオススメです。
渋さとカッコ良さと可愛さを求めているのであれば、是非ドンコをご自宅の水槽に迎え入れてみてはいかがでしょうか。