はじめに
突然ですが、皆様はテレビや動画サイト等で格闘技をご覧になった事はありますか?
鍛え上げられた格闘家が放つ渾身の一撃や華麗な回避には胸踊るものがあり、その洗練された一つ一つの技に感動します。
そんな中、実は海の中にも厳しい大自然に鍛えられた格闘家がいます。
それが今回皆様にご紹介する危険生物「シャコ」なのです。
シャコにはいくつかの種類がいますが、そのどれもが強力な武器を身に付けており、種類によっては人間に臆する事なく縄張りの侵入者と見なして攻撃を仕掛ける事も少なくありません。
襲われた種類によってはトラウマ級のケガを負わせてくる事もあり、その被害は危険生物と呼ばれるに相応しいです。
1,危険生物「シャコ」の特徴は?
シャコはシャコ目シャコ科とハナシャコ科があり、そのどちらも強力な武器を持つ海の格闘家です。
シャコの仲間は柔軟性と硬さを併せ持つ外骨格に身を包んでおり、腹部には強い遊泳力を生み出す「遊泳肢」が並んでいます。
その大きさは10〜15cm前後が殆どですが、最大種と言われる「トラフシャコ」は30cm近く成長するそうです。
また、非常に視力が良い生き物であり、周囲確認の時は、触角だけでなく可動域にも優れ、発達した目を使って獲物や縄張りの侵入者を捕捉します。
シャコは環境の変化にも強く、ロシアの沿岸部から台湾にかけて生息しており、シャコ科の最大種と言われる「トラフシャコ」は東南アジアに生息しています。
また、ハナシャコ科の仲間達は東南アジアやインド洋だけでなく、日本では相模湾より南の方に生息しており、美しい見た目から人気を集めているようです。
シャコ科の仲間は内湾の砂泥や泥底にU字型の穴を掘って生活の拠点としており、ハナシャコ科の仲間はサンゴ礁の浅場や砂底に穴を掘って暮らしています。
食性は肉食性で、ゴカイやイソメだけでなくカニやエビ等の甲殻類やアサリやツブ貝等の貝類、さらには魚類も襲って食べる他、生物の死骸も食べています。
2,シャコが危険生物と言われる理由とは?
シャコの仲間達を危険生物たらしめる理由は、彼らが攻撃や狩猟に用いる「捕脚」の威力にあります。
この胸部から伸びている捕脚は種類によりますが、鋭いトゲがいくつも並んだ「鎌」のようになっていたり、ハンマーのような突起がある打撃力が高まったタイプの捕脚を持つ種類もいます。
また、シャコの仲間達は海洋生物最速の攻撃速度を誇り、そのスピードも攻撃力を高めています。その速度は時速80km以上であり、高速道路を走る車と殆ど変わりません。
シャコ達は、狩猟や侵入者を攻撃する時にこの捕脚を使って高速で鋭い斬撃と同時に強力なパンチを繰り出しています。捕脚の周囲の海水はそのスピードに耐えられずに沸騰し、泡が立ってしまう程です。
通称「シャコパンチ」と呼ばれるこの一撃は、カニや貝類の硬い殻すら簡単に粉砕し、縄張りに近付いた外敵や天敵すら追い払い、イタズラをした人や近付きすぎたダイバーの体にかなりのダメージを与える程です。
中には爪を割られてしまったり、骨折させられた、手をガッツリ切り裂かれたという被害もあります。
■リアル○ンパンマン!?
たった15cm程の大きさしかないにも関わらず、強大な威力を誇るシャコパンチ。この威力には海洋生物も戦々恐々ですし、獲物にされている生物にとっては「死」そのものです。
一昔前、とあるバラエティー番組でボクシングの元チャンピオンと小さなモンハナシャコのパンチ力を競わせる企画がありました。
10cmちょっとしかないモンハナシャコが自分の対戦相手と知ったその方は、疑問を持ちながらも専用のマシンに渾身の一撃を放ちました。その威力は申し分ないものでしたが、モンハナシャコの一撃の威力が「自分と同じ体格だった場合の結果」を聞いて唖然としてしまいます。
それもそのはず。同じ体格で放たれた場合の威力は1tを軽く超えているのですから。筆者の記憶では4t近かったような気がしますが、どちらにせよ、この勝負は小さなモンハナシャコに軍配が上がりました。
1t超えのパンチなんて、猛獣や怪物が出てもほぼ一撃でK.Oです。
■隠された第二の武器!?
「シャコはパンチさえ受けなければ恐れるに足りぬ!」という猛者もいらっしゃるかと思います。
しかし、シャコの被害にあった方の中には「シャコパンチ以外」でケガをした方もいるのです。
シャコ達が隠し持つもう一つの武器が「尾扇」です。この尾扇には鋭いトゲが並んでおり、発達した遊泳力で急接近したり緊急回避をした際に相手を斬りつける武器となります。
たまたま潮溜まりで捕脚のないシャコを見つけても不用意に手を出さないようにしましょう。
3,シャコが攻撃してくる理由は? 攻撃を回避する方法は?
シャコが人間に攻撃を仕掛ける理由は、縄張りに近付かれた事と自分の身を守るためが殆どです。
シャコの仲間達は巣穴から顔を出している事が多く、人間が近付くとゆっくりと体の半分を巣穴から出して捕脚を広げて威嚇します。
また、シャコの中でもモンハナシャコ等のハナシャコの仲間は、自分の巣穴の周りをサンゴの欠片や貝殻で補強、装飾をするため巣穴の主が分かりやすいです。
巣穴も見付けて主もあいさつしてきたら、その場を静かに離れましょう。
離れる時も、敷居を跨がないようにゆっくりと離れます。
急に動いたり巣穴の近くを横切るようにしてしまうと、巣穴から飛び出して来て自慢のパンチをお見舞いしてきます。
4,シャコが釣れてしまったら!
シャコ達はとても貪欲な性質であり、魚釣りをしていると餌釣りルアー釣り関係無く釣れてしまう事があります。
意外とガッシリ掴んでいるので、なかなか離してくれません。そんな場合は厚い皮手袋を装着してシャコの胸部背面を掴み、慎重に針を外します。
厚い皮手袋をオススメする理由は、軍手やゴム手袋ではシャコパンチに太刀打ちできないからです。
針を外すのに自信がない方は、胸部を背面から掴んだら身動きの取れないシャコの捕脚をハサミで切り落とすと比較的安全に針を外しやすくなります。
5,もしシャコパンチを受けてしまったら?
絶大な威力を誇るシャコパンチ。
縄張りへの侵入やイタズラ等理由を問わず受けてしまった場合は回避不可能ですし、相当運が良くない限りはケガをしてしまいます。
捕脚や尾扇による切り傷や裂傷の場合は傷口を真水でよく洗ってから消毒液等で消毒をし、絆創膏やガーゼ等を傷口に貼ります。出血が多い場合は傷口を清潔なタオルで押さえたりして止血します。
パンチによる打撃でのケガの場合ですが、打撲のアザくらいであれば打撲に効く塗り薬等で治療できますが、爪を割られてしまったり骨折させられた場合は救急車を呼ぶか、病院に向かいます。
爪を割られてしまった場合はガーゼ等で傷口を覆って外部からの刺激から傷口を守り、病院に向かいます。
指の骨折の場合は患部を氷で冷やし、なるべく心臓より高い位置でタオル等を使って固定します。添え木があれば患部に添え木を当てて固定する事でより安定しやすくなります。
応急処置ができたら病院に向かいますが、小さなお子様がシャコパンチを受けた場合は痛みに耐えられませんし、ケガもかなり酷い場合もあるため、応急処置が難しい場合はすぐに救急車を呼ぶか、病院に連れていきましょう。
シャコの危険以外の一面について
①見た目の割には高級食材!
エビに似ているとは言われますが、シャコの見た目はかなり独特なので、人によっては「エイリアン」に見えるかも知れません。
しかし、そんな彼らは高級食材にランクインしており、江戸前寿司でもポピュラーな一品です。シャコ特有の海の香りやしなやかで筋肉質な身、あっさりとした旨味の虜になる方も多いそうです。
また、シャコは広い地域で食材として愛されており、地域によっては花見のメインディッシュとして君臨していたり、おつまみとして認知されていたりとかなり知名度の高い生き物なのです。
②食材にするなら鮮度が命?
どんな食材でも鮮度は大事ですが、シャコの場合はもっと大事です。
何故ならシャコは死後、殻から酵素が出てきてしまい、筋肉が分解されて著しく味が落ちてしまうからです。
時間が経つほど筋肉は分解され、仕舞いにはベチャベチャのデロンデロンになり、かなりキツイ臭いが出てしまうため、生のシャコが手に入った場合はすぐに茹でて分解を止める必要があります。
③まだまだある!シャコの食材伝説!
古くから食材として広く愛されてきたシャコ。
一つは「シャコツメ」です。あの強力無比なパンチを繰り出す捕脚の身の事なのですが、非常に希少な食材であり、たくさんのシャコから取り出したシャコツメを軍艦巻きにするそうです。
二つ目は「カツブシ」です。鰹節の事かと思いきや、何とシャコの卵巣の事であり、産卵期しか味わえない期間限定の珍味という事で珍重されています。
④母は強し!シングルマザーで子育てする!
シャコは産卵によって子孫を残しますが、この時モンハナシャコのメスは産卵が終わると卵の塊を捕脚に抱え、たった一匹で子育てをします。
この子育て期間中は、卵によってシャコパンチも封じられてしまうため、メスのモンハナシャコは丸腰になってしまいます。
ですが、どんな危機に直面しても卵を手放す事はなく、外的や天敵を見事にかわしてお世話を続行するのです。
⑤荒ぶる格闘家の天敵は「おちょぼ口」のアイツ!?
抜群の視力に強力なパンチ、鋭い尾扇を持つシャコに死角無し!と言いたい所ですが、やはり天敵が存在しました。
タコやイカもシャコの天敵と言われていますが、一番の天敵は「モンガラカワハギ」です。
「こんなヤツがシャコをK.Oできるのか?」と疑問を持たれそうですが、モンガラカワハギの体は分厚く頑丈なウロコが鎧のように並んでおり、おちょぼ口には鋭いキバが生え、噛み付く力も強力です。また、鎧のようなウロコを持つからか、好奇心旺盛かつ怖いもの知らずです。
モンガラカワハギはシャコを見つけるとホバリングをしながらシャコを翻弄し、隙を見て食らい付きます。タコの場合は覆い被さって捕食しようとします。
しかし、シャコはタダでは捕食されない強者なので、モンガラカワハギの場合はウロコに覆われていない尾の付け根に捕脚のトゲを突き刺したり、タコに対しては弱点である眉間に高速で近付いてパンチをお見舞いします。
⑥英語では○○?
シャコは漢字で「蝦蛄、青龍蝦」と書きますが、英語では「マンティスシュリンプ」と言います。
この「マンティス」は日本語にすると「カマキリ」という意味で、相手を威嚇する構えは独特の見た目がカマキリに似ているからそう呼ばれているそうです。
シャコに関するよくある質問(FAQ)
Q1: シャコはどこに生息していますか?
A1: シャコは主にロシアから台湾、東南アジア、日本の相模湾以南の沿岸部に生息しています。特に内湾や砂泥、泥底にU字型の穴を掘って生活していることが多いです。
Q2: シャコパンチの威力は本当に強いのですか?
A2: はい、シャコパンチは非常に強力です。海洋生物最速の攻撃速度を誇り、そのスピードは時速80km以上にも達します。カニや貝類の硬い殻を粉砕するほどの威力があり、人間が受けると骨折や深い切り傷を負うこともあります。
Q3: シャコが攻撃してくるのはなぜですか?
A3: シャコが攻撃する主な理由は、縄張りを守るためや自分の身を守るためです。特に縄張りに侵入してきたと感じると、攻撃を仕掛けてくることが多いです。
Q4: シャコが釣れてしまった場合、どう対処すればいいですか?
A4: シャコが釣れてしまったら、厚い皮手袋を装着してシャコの胸部背面をしっかり掴み、慎重に針を外しましょう。シャコパンチに備えて、軍手やゴム手袋ではなく、しっかりとした皮手袋を使用することをお勧めします。
Q5: シャコは食材としてどうですか?
A5: シャコは見た目に反して高級食材として珍重されています。特に鮮度が命で、新鮮なシャコは非常に美味です。シャコ寿司やシャコ料理として提供されることが多く、食材としての評価も非常に高いです。
まとめ
今回は海中の格闘家「シャコ」についてご紹介させていただきました。
シャコは寿司ネタやおつまみ等の食用として有名ですが、野生で生きているシャコは優秀な戦闘のエキスパートです。
そのため「食用」という考えが先走ってシャコを甘く見ていると、予想もしなかった仕返しを受ける事になってしまいます。
特に夏場は海水浴や潮干狩りを楽しむ方がたくさんいます。子供達がシャコを知らずに侮るのは仕方ありませんが、そのせいでケガをしてしまわないように、大人がしっかりとシャコの危険性について理解していれば被害はかなり減るのではないかと思い、執筆させていただきました。