はじめに
飼育スペースをあまり取らず、環境に馴染めば飼育もしやすい甲殻類の仲間は、いつの時代も人気が高くペットとして親しまれています。
そんな甲殻類達の中には、派手な色彩で人気なヴァンパイア・クラブやビーシュリンプ、さらには変わり種としてコシオリエビなどが含まれており、多種多様かつ個性的な揃い踏みです。
そこで今回は古くから親しまれている日本の淡水甲殻類「サワガニ」の特徴や飼育方法などについて皆様にご紹介させていただきます。
サワガニと聞くと「何だか地味そう…」とか「その辺にいる」というイメージがあるかも知れませんが、その見た目や生態は意外にも奥深いものがあり、飼育していて楽しい種類です。
1,サワガニってどんなカニ?
①サワガニの特徴について
サワガニは甲羅の幅(甲幅)が2〜3cm、脚を含めると5〜7cmほどになる小型のカニの仲間です。
この甲羅は同じように淡水で生活するベンケイガニやアカテガニと違い、とても滑らかでツルツルとしており光沢もあります。
一生を淡水で生息しており、その体色は全身が茶色っぽい個体から、甲羅が青みがかって脚やハサミが白っぽい個体もおり、意外とカラーバリエーションがあります。
また、甲羅が茶〜レンガ色で、脚が鮮やかなオレンジ色、お腹側とハサミの先だけ白いという個体が見かける機会の多いスタンダードなカラーとなっています。
⭐カラーバリエーションには理由がある!
サワガニには「赤色型」「青色型」「茶色型」の3つのバリエーションがあり、鹿児島県ではこれら全ての型のサワガニを見る事ができます。
その場合、特に変わっているのが「赤色型」と「青色型」の住み分けです。
なんと、生息地がほとんど被らないのだそうです。
これは約6300年前に起きたとされる「幸屋火砕流」によってもたらされた堆積物の北限が住み分けの境界線になっているといる説があります。
また、産まれて間もない稚ガニのほとんどが「茶色型」とされていますが、成長して甲幅が1.4〜1.5cmを超えてくるあたりから「赤色型」になる個体と「青色型」になる個体に分かれるという、不思議な特徴があります。
②生息地について
サワガニは北海道以外の都道府県、北限は青森県から南はトカラ列島まで幅広く生息していると考えられています。
その広い生息分布の中でも、サワガニは「沢蟹」と漢字表記されるように、小川や渓流(沢)、環境が良ければ用水路などに好んで生活しています。
また、普段は石の下や流木の影などに隠れているサワガニですが、雨が降っている時や餌を探している時は水場を離れて陸上を活発に移動するため山中で見つかる事もあるようです。
⭐実は自然界のバロメーター!
聞いた事がある方もいらっしゃるかも知れませんが、サワガニは綺麗な水のあるところでしか基本的に見られないため、「水質階級Ⅰ」の「指標生物」となっています。
この「指標生物」はかなり重要で、その場所の環境や水質がいかなるものかを識別する事ができます。
もし、皆様が川辺に行った際にサワガニがちょこちょこと走っていたら、そこは滅茶苦茶に水が綺麗な環境という事です。
🧬実際どうなの?北海道のサワガニの謎!
先ほど「北海道」には生息していないとしましたが、その理由は、北海道で発見されたサワガニに「不確定要素が多すぎた」からです。
かつて北海道では河川に生息していた小さなモクズガニをサワガニと誤認していた事があった他、最近では渡島半島の河川でサワガニの一種が生息・繁殖していた事が方向されていたものの、そのサワガニが北海道の「在来種」「個体群」という証拠が確認されていないという結果になっています。
今では勝手に野外に捨ててしまうような残念な方もいるため、遺伝子情報などのハッキリとした証拠がなければ報告されても認めにくいのでしょう。
👑サワガニは誇るべき◯◯!
なんやかんやペットとして親しまれたり、キャンプしてたらちょこちょこと駆け回っている姿を見られる事もあるサワガニですが、なんと、ほぼ全種が「日本の固有種」となっています。
他の国にはいないとい思うと途端にプレミア感が出てきます。
③別名はあるの?
サワガニは古くから親しまれており、水の綺麗な環境であれば小川以外でも姿を見せてくれます。
そんな事もあってか、長崎県では田んぼに現れるため「田蟹(タンガネ)」と呼んだり、徳島県では排水溝や用水路に現れるため「イデンコガニ」と呼んだりします。
④餌は何を食べているの?
サワガニは雑食性なので、植物質も動物質もモリモリと食べます。
野生下ではアオミドロや糸状の藻類や落ち葉、カゲロウの幼虫やヤゴのような水生昆虫、バッタやコオロギなどの陸生昆虫などを食べています。
また、捕獲できればミミズやカタツムリ、エビ、小魚なども食べます。
飼育下ではザリガニやヌマエビ、魚用の人工飼料だけでなく、活き餌として販売されているコオロギやローチ、ミルワームも食べます。
また、与えられるのなら煮干しや鰹節もサワガニにとって良い餌です。
⑤気になる性格は?
サワガニは基本的に単独で生活していますが、協調性は悪くはないので野生下では岩場を共用の隠れ家にしたり、お迎えした際には複数匹で飼育する事もできます。
しかし、成長したオスは気が強くなって小競り合いをするようになってしまったり、飼育スペースが狭すぎるとメスや子ガニ同士でもちょっと揉めてしまう事があるので、彼らのパーソナルスペースはしっかり用意してあげましょう。
また、サワガニはちょっと神経質な面があり、物音がしたり何かの気配を感じると岩影や流木の影に逃げ込んでしまいます。
⭐ちょっと臆病な所をケアしてあげると!?
自然界では割りと捕食される側でもあるサワガニが物音や何かの気配に怯えて逃げるのは至極当然の事です。
しかし、サワガニを飼育し、そのビビリな一面を受け入れて大切に飼育してあげると、お世話をしてくれた人に慣れてくれるという一面もあります。
餌の時間でもないのに姿を見せ、ハサミを振ってアピールしてくれたり、ピンセットや手から餌を受け取ってくれるほど慣れてくれます。
⑥寿命はどのくらい?
野生下のサワガニは捕食されたり事故にあったりで長生きできている個体は一握りほどです。
しかし、ペットとして迎え入れられ、大切にお世話されたサワガニは5〜8年生きるとされており、中には10年生きた個体もいたとされています。
2,サワガニを飼育する際の注意すべきポイントについて
ツルンとした光沢のある甲羅に鮮やかなオレンジ、陸を走るだけでなく、ある程度の立体活動も得意なサワガニはアクアとテラの両方の魅力を小さな体にたっぷり詰め込んでいます。
ですが、指標生物に認定されているだけあって、お世話の手を抜いてしまうと急激に弱って短命に終わってしまったという話も少なくありません。
🦀サワガニを飼育する際に注意すべきポイント🦀
- 水温を上げ過ぎない事。
- 複数匹飼育する場合は隠れ家を増やしたり、広めの飼育ケースを使う事。
- 水質の悪化や急変に弱いので濾過はキッチリ行う事。
- 「人工マリモ」のような人工的なコケを付けたアクセサリーを使わない事。
- 必ず陸地を設ける事。(あるいはアクアテラリウムで飼育する事。)
- 脱走しやすいので必ずフタをする事。
- カルシウム不足に気を付ける事。
Q,どうして人工コケが付いたアクセサリーを使ってはいけないの?
A,空腹になったサワガニが本物のコケと勘違いして食べてしまうからです。
その緑色やフンワリした感じは水中でも良く映えるので人気があるのですが、筆者としてはサワガニ飼育にはあまり向いていないと考えています。
というのも、筆者がサワガニを飼育していた頃、人工コケのアクセサリーを入れていたのですが、サワガニが人工のコケをハサミでブチブチ千切って食べているのを見てしまったからです。
案の定、人工コケは消化できず便秘状態になってしまったため、水温を少し上げて消化に良さそうな熱帯魚用フレークフードに餌を切り替えて何とかサワガニの便秘を治した事があります。
サワガニ達もお腹に違和感があるのか動きも若干鈍くなりましたし、人工アクセサリーもボロボロになってしまったためどっちにしろ良い結果にはなりませんでした。
3,サワガニの飼育方法について
①飼育容器・フタについて
サワガニは1〜2匹くらいなら45cm水槽でも飼育する事ができます。
もし水槽で飼育する場合は、サワガニの脚が意外と壁面を引っ掻くので傷付きにくいガラス製水槽をオススメします。
アクリル水槽はお値段が張るため、買い換えも考えた時に経済的にあまりオススメしません。ですが、傷付けられても安価で買い換えやすいプラスチックケースも飼育に使う事ができます。
フタについてですが、サワガニはコードやエアチューブなど登れる物が登って知らぬ間に脱走する事もあるので必ずフタをするようにしてください。
⭐1〜2匹なら爬虫類用ケージもあり!?
サワガニの飼育には全身が浸れるほどの水位と陸地が必要ですが、それさえ確保できるなら爬虫類用ケージもサワガニ飼育に使う事ができます。
GEX様が販売している「エキゾテラ グラステラリウム」や三晃商会様の「グラスゾーン」、マルカン様の「ジオスペース」もオススメです。
「エキゾテラ グラステラリウム」と「ジオスペース」は扉が観音開き式になっており、「グラスゾーン」はケージの上部が開くようになっています。
どちらも底砂を敷きすぎなければサワガニの全身が浸れるくらいの水深になりますし、立体活動ができるようにレイアウトしても脱走されにくい構造なのが特徴です。
②サワガニのお迎えについて
サワガニは甲殻類にも力を入れているペットショップであれば取り扱われている事もありますが、なかなか見つからない場合は通販を利用するとすんなりお迎えする事ができます。
また、近くでサワガニが見られるという場合は野生のサワガニを捕まえて飼育するのも楽しいでしょう。その場合は、春〜秋頃がサワガニの活動時期ですので狙うには丁度良いと思います。
⭐カニの安全な捕まえ方を知ろう!
サワガニはカニの仲間の中でも小さい種類ですので虫網で掬ったり手でそのまま捕まえる事もできます。
しかし、油断していると指や手の平をハサミで思いっきり挟まれて痛い思いをする場合がありますので、ここではカニの安全な捕まえ方についてもご紹介させていただきます。
これを覚えれば川や海に行った時にベンケイガニやイソガニなどの大きめのカニを見つけてもサクッと捕まえる事だってできますので覚えていて損はありません。
サワガニ、ひいてはカニ達を安全に捕まえる方法とは「背中の甲羅をサイドから掴む事」です。
カニ達は脚で引っ掻いたりハサミで挟もうとしてきますが、真後ろからの攻撃には滅法弱く、ハサミも脚も届かないので安全に、しかも最小限の力で捕まえられます。
ちなみにサイドから掴む理由としては、頭よりだとハサミが届き、お尻側だと脚で引っ掻かれてしまう可能性があるからです。
また、小型種だと甲羅とお腹側を挟むようにして持つ場合もありますが、お腹側は意外と柔らかくエラや胃が圧迫されてしまうためあまりオススメしません。
個人的には鷲掴みはもっとオススメできず、カニに挟まれるだけならまだ良いものの、力加減を間違えると小さなカニは潰れてしまいますし、力加減ができていてもヴァンパイア・クラブのような小さなカニは恐怖のあまり脚やハサミを自切してしまいます。
Q,サワガニが見つからないので食用サワガニを購入、飼育しても良いですか?
A,そうしたいなら止めませんが、かなり大変です。
食用の種類は中々ペットとして流通しないので素晴らしい着眼点だと思います。
しかし、食用に販売されているサワガニをペットにするためのお取り寄せとなると話は別です。
実際に通販サイトなどで見ると分かりやすいのですが、食用サワガニは1パックに数十匹もの数がまとまって入れられた状態で配達されます。
元気は良いのですが、数十匹ものサワガニを飼育しなければならなくなります。飼育設備を増やしたり、餌問題だって出てくるので現実的ではありません。
③水質、水温について
サワガニは中性〜弱アルカリ性の綺麗な水質を好んでいるので飼育する時はこの水質をキープする必要があります。
水温についてですが、サワガニは河川であれば上流〜中流に生息している種類のため高い水温に弱い反面、低い水温に強いという特徴があります。
⭐サワガニ飼育の難所!夏場をどう乗り切る!?
近年殺人的な暑さで悩ませてくる夏場。
この圧倒的な暑さは私達人間だけでなくペット達にも猛威を振るいます。
しかもこれが高温が苦手な種類だと非常に厄介なのです。
夏場を乗り切る方法としてクーラーを使う方法もありますが、水量が少な過ぎて使えない場合もあります。
手軽にできる方法としてはアクアリウム用のファンを取り付けたり、冷たい水を入れたペットボトルをケージに入れたり張り付けたりして温度を下げます。
④底砂について
底砂を敷くと、サワガニがひっくり返った時や歩く時の足場になったりサワガニ自身も落ち着きやすくなるので、できれば入れて上げたいアイテムです。
大磯砂がポピュラーですが、川砂と組み合わせて使ってみるのも雰囲気が出ます。
また、カラフルな砂を浸かってみるのも面白く、メダカや金魚の飼育に使われる五色砂もオススメです。
⑤レイアウトに使うアイテムについて
サワガニは活発に動くだけでなく神経質な一面があるので隠れ家と陸地を作る必要があります。
これらが作られないと運動するスペースが限られてしまったり、脱皮する時に隠れられず同居カニに襲われてしまうので注意が必要です。
岩を入れるとその下に穴を掘って隠れたり、流木を壁面や底砂で作った陸地に立て掛けるように設置すると登って立体活動をしてくれるようになります。
⑥フィルターについて
サワガニは綺麗な水を好むため濾過の妥協は許されません。
しかし、飼育の関係上どうしても水量が少なく水位も低くなりがちです。
そんなサワガニ飼育では、水位に合わせつつ、投げ込み式フィルターやパワーフィルターがオススメです。
投げ込み式フィルターとパワーフィルターはサイズも数多く揃っており、カメ飼育用のタイプだと低い水位にも対応しているので使い勝手が良いです。
⭐水質維持の強い味方!竹炭や活性炭を使ってみよう!
水量の少ない環境での水質維持は難しいものがあり、この辺はアクアテラリウムも小型水槽に共通するものがあります。
そんな時の強い味方が竹炭や活性炭などの炭です。
入れすぎると水質を弱アルカリ性に傾ける作用があるので弱酸性を好む熱帯魚に多用しづらいのですが、元々弱アルカリ性も好むサワガニであれば問題なく使う事ができます。
使い方の一例として、「竹炭シェルター」の場合は沈めたり陸地に渡すようにして設置、細かく砕けているタイプは一度すすいで余計な煤を落としてからメッシュタイプの入れ物に入れて水に沈めると水中の汚れを吸着してくれます。
⑦水草について
サワガニの飼育環境で水草を育てるのはなかなか難しいと思います。彼らは雑食性なので水草もモリモリと食べてしまうからです。
サワガニの餌兼短期の水質浄化を狙うのであれば、マツモやカボンバ、アナカリス、淡水ワカメなどを入れると食べ尽くされるまでの水質浄化を期待できる他、植物質を摂取させる事ができます。
⑧給餌について
サワガニは好き嫌いなく何でもよく食べてくれます。
ザリガニなどの甲殻類用や魚用の人工飼料を与えたり、柔らかい水草や湯がいたホウレン草、小松菜などの野菜類を与えます。
動物質の餌を与える場合はちょっとふやかした煮干しやフリーズドライのヌマエビ、オキアミなどを与えます。
虫に抵抗がなければコオロギやローチ、ミルワームも良い餌になりますが、軽くカルシウムパウダーをまぶしてからピンセットで摘まんで与えるとサワガニもカルシウム補給ができますし、すんなり食べる事ができます。
人工飼料や湯がいた野菜類を与える場合は、サワガニも登りやすい高さがないタイプのディッシュ(餌皿)に入れて与えるようにすると食べこぼしや残った餌を回収しやすくなるのでオススメです。
⑨掃除と水換えについて
飼育している匹数や水槽の汚れ具合にもよりますが、目安として1週間に1度全換水します。
また、底砂を敷いている場合は底砂の隙間にかなり汚れが溜まっているのが確認できたら底砂も取り出して洗います。
普通の水換えの場合は、壁面の汚れをメラミンスポンジなどで拭き取ってからクリーナースポイトで汚れごと水を取り除きます。
水を抜き終わったら、カルキ抜きをした新しい水を水槽に足して水換えは完了です。
フィルターは内部の濾過材が目詰まりしているようであれば洗って綺麗にします。濾過材の傷みが酷い場合は新しい物と交換しましょう。
炭の砕けた物を入れていた場合は、一度袋ごと水槽から取り出してから軽くすすいで汚れを落とします。
底砂にかなり汚れが溜まってきたら、サワガニを別の入れ物に隔離し、水槽からレイアウトアクセサリーと底砂を取り出して別個に洗います。
レイアウトアクセサリーが汚れている場合はタワシや歯ブラシで汚れを落としますが、竹炭シェルターは力を入れすぎると簡単に割れてしまうので力加減に注意が必要です。
水槽から取り出した底砂は水洗い用の水が透明になるまで洗いますが、洗剤などは決して使わないようにしてください。万が一洗剤の成分が底砂に残っていた場合、サワガニが弱って死んでしまいます。
使った底砂を殺菌したい場合は熱めのお湯を注いで消毒したあと、ザルなどに敷いて天日で干します。
4,サワガニが陥りやすい病気やケガについて
サワガニは病気になりにくく、ケガもそんなにするような種類ではありませんが、サワガニを飼育していると陥りやすい状況と対処方法についてご紹介させていただきます。
①自切
健康でストレスもないサワガニはそうそう自切はしませんが、水質が悪化・急変したり水温が高くなりすぎて弱ってしまうと自切してしまう事があります。
また、脚やハサミを掴まれると自切する事があるので捕まえる時はそれらの部位を掴まないように注意が必要です。
良い飼育環境をサワガニに提供できていれば基本的に自切に怯える必要はないのですが、脚やハサミがないと不安に感じてしまう方もいらっしゃると思います。
もし、自切をしてしまった、既に欠損していたという場合は、よりサワガニを大切にお世話するようにしましょう。
水質や水温に気を付け、餌もしっかり与える事でサワガニは脱皮を迎えます。この脱皮を数回繰り返すと欠損した脚やハサミも復活しますのでご安心ください。
Q,両方のハサミがない場合はどうやってお世話すれば良いの?
A,ハサミが復活するまでピンセットなどでご飯を食べさせてあげましょう。
自然界ではかなり苦戦を強いられますが、飼育している個体ですのでハサミが復活するまで飼い主が餌を食べさせてあげます。
ふやかした人工飼料やフリーズドライフードをピンセットで口元に持っていって与えるのも良いですが、一回の給餌でしっかりと栄養を与える事を考慮し「爬虫類用の人工飼料」を与えてみるのがオススメです。
常識というものは意外と簡単に崩れるもので、爬虫類用人工飼料は結構アクアリウムでも通用します。
「フトアゴゲル」はパウチ状になっているので与える分だけを取ってピンセットで挟み、そのまま与える事ができます。
また、ペレットタイプの「バグリッチ」は水でふやかした後、ピンセットで挟みサワガニの口元に持っていって与えます。
爬虫類用人工飼料がサワガニやドワーフクラブに応用しやすいのは使いやすさもありますが、外せないのが栄養価です。
カルシウムやビタミンを豊富に含んでいるだけでなく、特にフトアゴ用の餌は植物質も含まれているので栄養バランスが優秀なのです。
②脱皮不全
カニに限らず甲殻類全般で恐れられているものです。
主な原因はカルシウム不足や水質が悪い事、脱皮するスペースがないなどが挙げられます。
脱皮不全は死亡率が高く、生きられたとしても脚が取れたり変形してしまったりなどかなり弊害が残りやすいです。
そんな脱皮不全の予防策として、水質を綺麗に保つ事、安心して脱皮できるスペースや隠れ家を用意する事、カルシウムが豊富な餌を与える事などが挙げられます。
Q,脱皮のタイミングが分かりにくい!脱皮殻はすぐ取り除くべき?
A,甲羅と腹甲の繋ぎ目を観察しましょう。また、脱皮直後は決して刺激してはいけません。
甲殻類あるあるとしてよく聞くのが「脱皮のタイミングが分かりにくい」というものです。
ビーシュリンプやドワーフクラブだと気付いたらツルンと脱いだりするのでタイミング不明と合わせてヒヤッとする事があるのかも知れません。
さて、サワガニの脱皮のタイミングについてですが、ある程度の大きさがあるためドワーフクラブやビーシュリンプより目安が分かりやすかったりします。
どこを見るべきかというと「おしり側の甲羅と腹甲の繋ぎ目」です。
普段はピッタリくっついている部分ですが、脱皮が近付いてくると徐々に繋ぎ目が離れていきます。これが確認できたら脱皮が近いという事になります。
また、脱皮が近付くと食欲がなくなり動きも鈍くなる他、隠れ家に籠りきりになるので、これらの特徴が顕著になってきたら水換えも控えて脱皮するまで待ちましょう。
脱皮できたらすぐに水換えをしたり脱皮殻を取るような事はしてはいけません。何故なら脱皮直後は非常に敏感で、軽く触れただけでも死んでしまう事があるからです。
③共食い
餌やカルシウムが不足していたり、飼育匹数に対して飼育ケージのスペースや隠れ家が足りないなどの要因で引き起こされます。
また、これらの要因で脱皮中に別の個体に襲われ、食べられてしまうという事もあります。
5,サワガニの繁殖について
サワガニは雌雄判別もしやすいのでペアを揃えやすく、稚ガニが産まれてくるタイプのカニなので環境を整える事ができれば繁殖も狙えます。
①雌雄判別について
サワガニやドワーフクラブなどのカニの仲間はエビの仲間より雌雄判別しやすいので、繁殖を狙っていなければ分ける事も簡単ですし、ペアを揃えるのも簡単です。
♠️オスの特徴♠️
- 片方のハサミが巨大化する。
- お腹のふんどし(腹節)が幅の狭い二等辺三角形。
- 他のオスを見つけると小競り合いをする。
- メスを見つけると交尾しようと追いかけたり捕まえたりする。
♥️メスの特徴♥️
- 両方のハサミが同じくらいの大きさで、オスと比べても小さめ。
- お腹のふんどしがカマボコのような形をしており幅が広い。(←卵を抱えるため)
- ほとんど小競り合いをしない。
②交尾のタイミングと交尾について
サワガニのオスは、脱皮して日が浅いメスと交尾するため、メスの脱皮のタイミングを知る必要があります。
メスが脱皮に成功し、自分で動けるようになったタイミングでオスはメスを両方のハサミで捕まえ、抱きかかえるようにして交尾に移ります。
⭐繁殖させるためには環境のメリハリが大切!
サワガニは1度産卵すれば、メスが孵化までお世話をするのでカニの仲間の中ではかなりお世話をしやすいという特徴があります。
しかし、繁殖させるためには水温やライトの照射時間のメリハリが不可欠であり、冬季にはヒーターで加温せずに冬眠をさせる必要があります。
③交尾後〜産卵まで
飼育方法は特に変わりませんが、交尾後のメスは食欲が旺盛になるのでしっかり食べさせて栄養を付けてあげます。
交尾から約1ヶ月後。メスは陸地で産卵し、卵のお世話を始めます。産まれる卵は鮮やかな赤色で約40〜50個、多い時は100個近く産む事があり、直径も約2mmとカニの仲間の中ではかなり大きいです。
④卵の孵化について
卵が順調に育っていくと、鮮やかな赤色だった卵は次第にオレンジ色っぽく色が変わっていきます。
孵化までの期間は約1ヶ月で、それまでメスがずっとお世話をしています。
しかし、この期間に餌が足りなかったり変にストレスを与えたりすると育児放棄をしてしまい、せっかくの卵を食べてしまう恐れがあるので注意が必要です。
⭐産まれた直後はお母さんにベッタリ!
長い期間を経て孵化した稚ガニ達ですが、孵化直後はお母さんカニから離れずふんどしにしがみついています。
これはまだ自力で動けるほど体ができていないからと考えられています。
④稚ガニにお世話について
稚ガニはとても小さいですが、その見た目は大人のサワガニ達とほとんど変わりません。
お世話をする時には、フィルターに吸い込まれないように目の細かい袋でフィルターを包んだり、稚魚用投げ込み式フィルターに変えて吸い込まれないようにします。
稚ガニ用の餌についてですが、こちらも浅いディッシュに稚魚用のパウダーフードや湯がいたホウレン草や小松菜の葉の柔らかい部分を盛り付けて与えます。
水換えや夏場はかなり注意が必要で、稚ガニは大人のサワガニ以上に温度急変に弱いため、水換え後の水足しや夏場の温度管理の際は冷水を入れる事がないように注意してください。
稚ガニ達はたくさん栄養をとってどんどん脱皮していくのですが、しっかりと成長して大人になり、繁殖可能になるまで3〜4年かかるとされています。
6,もっと好きになる!?サワガニの豆知識について
ここまでサワガニの特徴や飼育方法などについて盛りだくさんにご紹介いたしましたが、サワガニは古くから親しまれている生き物です。
①国語で習った事があるかも。文学「やまなし」
今でも教材として国語の教科書に載っているか分かりませんが、文豪「宮沢賢治」が書いた「やまなし」という物語があります。
この物語の主人公は小さなサワガニの兄弟で、小川の中で様々な美しいもの、恐ろしいものを見ながら過ごすという物語です。
②意外とエグい話!「さるかに合戦」
原作の内容としては、ある日カニがおにぎりを見つけて喜んでいると、それを見たサルが「柿の種」との交換話を持ち掛けます。
最初は渋っていたカニも「後々たくさんの実をつける柿の方が良いかも」とおにぎりと柿の種を交換し、大切に育てます。
その後、柿の木にはたくさんの実がなりましたが、木登りできないカニが収穫できずにいると、再びサルがやって来て柿を奪っていったのです。
しかも、「柿をちょうだい!」と言ったカニに青くて硬い柿を投げつけて殺害しています。
ちなみにカニが殺害された時、「お腹からたくさんの子ガニが出た」という表記から、このカニはサワガニであり、殺されたカニはお母さんカニであった事が分かります。
また、アニメやマンガだとこの部分は「大ケガ」として語られ、カニの敵討ちとして臼、蜂、栗、牛のフンが協力してサルを懲らしめるという内容に変わっています。
内容が「変わっている」という事は、好き勝手していたサルの末路も違うという事です。それぞれ事なる結末なので気になる方は是非読んでみてください。
ちなみにアニメ「鬼灯の冷徹」では桃太郎一派のサルが「さるかに合戦」のサルと同一の存在だったようで、罪人を罰する鬼である鬼灯さんから「カニへの傷害罪」について突き付けられ、さらには「ちゃんとカニに謝罪は済ませたのか?」と詰め寄られています。
③意外と天敵が多い
石の下に上手く隠れたり、川底の小石に紛れて捕まえづらそうなイメージのあるサワガニですが、自然界では捕食される側であり天敵もたくさんいます。
7,日本の固有種がピンチ!サワガニの未来は?
「日本の固有種であり絶滅危惧種のニホンザリガニが捕獲や採集、売買を原則禁じる『国内希少野生動植物種』に指定される事が決定」
一応研究や趣味などの商業目的以外の捕獲・採集を認める「特定第2種国内希少野生動植物種」なので、まだ姿を見る機会は失われていない事が幸いです。
施行は2023年1月11日。同年6月から外来種のアメリカザリガニの取引を規制するため、ニホンザリガニが急激に流通する可能性がある事を政府は懸念しています。
とりあえず、ニホンザリガニは国内固有種であり、唯一の在来のザリガニです。そして、飼育難易度がかなり高い事でも有名であり、生息地も農薬や山の開拓、護岸工事などで住みかを奪われつつあります。
このまま上手く繁殖もできずに流通だけが増え、生息地も追われてしまったら本当に見られなくなってしまうかも知れないのです。
これは同じく固有種のサワガニにも言えます。サワガニは食用として繁殖されているので、重大なアクシデントでもない限りは急激に数を減らすという事は無いと思います。
しかし、サワガニの仲間のほとんどが日本固有種であり、さらに絶滅危惧種として登録されていたりします。
特に「ヒメユリサワガニ」という種類は日本のカニの仲間の中でも予断を許さないほど絶滅を危惧されています。
また、飼育でも見守る方でも、託された命をどのように繋ぐか、学びを残し応用するかなど考えながら、彼らを守る方法を考え、現在でも姿を見せてくれているサワガニを始めとした固有種達の未来を消さないようにできたらと筆者は思っています。
まとめ
サワガニは自然以外でもタイミングさえ合えばペットショップでも見られるポピュラーな日本産甲殻類ですが、飼育や繁殖にはそれなりのコツが必要だったり、綺麗な水が不可欠だったり、さらには大人になるまで3年以上かかるなど、意外と知らない一面も多かったのではないでしょうか?
今回は有名どころをチョイスしましたが、ある地域では大蛇から人間の娘を守るために大群で戦いに挑み、死闘の末に大蛇を討ち取ったという話もあるほど親しまれている生き物なのです。
これほど愛された生き物をまだ飼育する事が許されているのにとても感動していますが、実際ペットとして流通されているサワガニ以外は基本的に絶滅の危機に晒されているため他人事とは思わず、お迎えしたサワガニちゃんのお世話をしながらサワガニを通して大昔や他のサワガニの仲間達、彼らの未来や自然環境について思いを馳せてみてはいかがでしょうか。